【11月12日 MODE PRESS】
―コンプレックスがギャル文化に繋がる

前回のコラムでもお話したように、ロシアの研修ではいろんな発見があり、その中でも印象的だったのはロシア人学生の中でも一番仲良くなったウリアナと何気ない会話をしていたときのこと。

ウリアナは透き通った白い肌に青い目をして、ヘアーはゴールドをベースにハイライトとローライトのメッシュがいい感じに混ざりあった、いわゆるブロンドヘアー。とはいえ私の中でロシアといえば2人組の歌手「タトゥー(Tatoo)」のイメージがあった為、ふと気になって「そのヘアカラーは美容院でやったの?」と聞いたら「一度もカラーリングはしたことはないの」と言う。「私は自分のヘアカラーが気に入っているの。いろんな色が混ざっているけど私のナチュラルな色よ」とウリアナ。かくいう私自身、常にカラーリングをしているので、黒いはずの自毛をかれこれ10年以上も見ていない。生まれ持った自然のままの自分を愛するロシア人のウリアナと、あれやこれやと手を加えて進化させてしまう日本人の私では、そもそものポリシーやこだわり、根本的な意識に大きな違いがあることを痛感させられた。

そもそも、現代において、髪の毛の色が黒かろうが、茶色かろうが、ましてや金髪だろうが、生活する上では特に国籍や生まれ育ちを意識することはない。しかし、周囲を見回してみれば右を向いても左を向いても、みんな髪の色が自毛の色とは違う。もはや無意識に、(いや、意識しているからこそ?)髪はカラーリングするもの、というルール?が若い女性たちのあいだでは認識されているのも事実だ。

―無意識に憧れを抱く「外国」

話は変わって、日本は戦後、民主化が進むに連れて価値観も変化してきた。50歳過ぎの私の父に言わせると、子供の頃「ビーバーちゃん」という米ホームドラマを初めてテレビで見たとき、大きな牛乳瓶や車、冷蔵庫、スタイリッシュな自転車に相当なカルチャーショックを受けたのだとか。父は後にアメリカに憧れて1年ほど留学したそうだが、その理由を改めて聞いたところ、音楽はもちろん、遊び(ボウリングやビリヤードなど)やライフスタイルそのものに誰もが憧れる存在、それがアメリカだったというのだ。

そんな時代背景を持った両親から生まれて、20歳まで渋谷で育った私の街には、小学校に入学した頃から1歩外にでればギャル。右を向いても左を向いてもギャルがいた。その誰もが、ロシア人のウリアナのようなヘアカラーで、目には色素の薄いカラコン、まつげはバービー人形のようにカールさせ、目のあたりは「彫り」が深いどころでは済ませられないほど真っ黒にアイラインが引かれていた。

小さな体は厚底靴とミニスカで全体のバランスを取り、独特の言葉(ギャル語)を用いて会話をする。その姿はまるで外国人だ。

父の時代には遠い異国に大いなる憧れをもつ一方で、今は古き「カリスマ店員」や「読者モデル」といった、身近な有名人に憧れを持つギャル。ギャル文化に関しては、これから先も多様化していくと思うが、日本人特有の手先の器用さや繊細さによってますます洗練されているように感じる。

―次なる東京的ギャル文化

ギャル文化とひと言でいっても、ここ数年でさまざまな変化があった。これまでのギャル系ブランドのファッションショーといえば、「東京ガールズコレクション(TGC)」を思い浮かべる人が多いかもしれないが、今巷で主流になりつつあるのは、それとは全く別の「タッチミー(touchMe)」なのだ。参加者がチケットを購入し、観覧するTGCとは反対に、完全招待制で行われる。マークスタイラー主催の完全招待制ファッションショー「タッチミー(touchMe)」では、仏のファッション誌「ジャルーズ(JALOUSE)」編集長ジェニファー・エイメールがスタイリングを手がける。ランウェイには、エビちゃんはじめ、有名人気モデルたちは一切登場しない。あくまでも服が主体なのだ。

これらのファッションショー形式は、これまでの人気モデルやタレントありきのスタイルと比べても明らかであるように、さらに進化した次なる東京的な「リアルクローズ」の概念を打ち出していくことになるだろう。

ちなみに、ショー会場で友人がふとこぼした言葉で、ちょっとした違和感が解消された。
「ここに居ると金髪じゃないほうがおかしいってくらい皆して金髪じゃない?」
そう、会場にいる1万人余りのうら若き女性たちのヘアカラーが、ほとんどといっていいほどに、金髪または茶髪だったのだ。そんな現実を目の前に、笑いがこみ上げてきた。原点は、外国への憧れだったはずが、いつの間にかそれらは“東京スタイル”へと進化を遂げている。ギャル文化は、時代に合わせてさまざまな形へと変化をしている。【大田明弥】

-プロフィール-

モデル兼デザイナー兼ブロガー。1987年生まれ。杉野服飾大学卒業と 同時期に「リメイクができるモデル」として注目され、ブログへのアクセス数が急増。1日最高84万アクセスを記録したのち、リメイクブロガーとして「東洋 経済」やNHK「東京カワイイTV」などへ出演。現在は、企業や多数のアパレルブランドとコラボシリーズを発表するなど、デザイナーとして活動中。 (c)MODE PRESS

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