【11月19日 AFP】アジア諸国初の火星到達を目指す試みを通して、インドが低コスト惑星間飛行の新基準を打ち立て、3000億ドル(約30兆円)規模とされる世界の宇宙開発市場に切り込むための絶好の足場を築いていると、専門家らが注目している。

 インド宇宙研究機関(Indian Space Research OrganisationISRO)は今月5日、火星周回軌道探査機「マーズ・オービター(Mars Orbiter)を極めて正確に地球の周回軌道に乗せた。

 宇宙関連ミッションとして記録的に安い7300万ドル(約72億円)しかかかっていない事実は「世界の目を見張らせている」と、インド初の民間宇宙ベンチャー企業「アースツーオービット(Earth2Orbit)」の共同創業者ススミタ・モハンティ(Susmita Mohanty)最高経営責任者(CEO)は語る。これは18日に打ち上げられた米航空宇宙局(NASA)の無人火星探査機「メイブン(MAVENMars Atmosphere and Volatile EvolutioN)」と比べて、10分の1のコストだということ以外に「インドの宇宙計画の先進性を、世界がほとんど知らなかったから」だともいう。

 インドはすでに米国、ロシア、フランス、中国、日本とともに、宇宙技術力で世界の上位6位に数えられている。しかし、ISROの年間予算はNASAの17分の1、11億ドル(約1100億円)だ。ISROの報道官によれば、画期的な低予算で宇宙計画を可能にしている秘密は、自前の「国産」計画であることと、欧米よりもかなり低く抑えた科学者たちの人件費だという。

 インドは1974年に核実験を行い、その後、欧米諸国に制裁措置を発動されたことから、宇宙計画を推進した。そして月探査機「チャンドラヤーン1号(Chandrayaan-1)」が5年前、月面に水の存在を示すデータを発見するといった成果を上げている。現在、インドの衛星21機が地球を周回し、通信事業者や放送局、気象観測所、遠隔地の教育や医療などを支援している。

 ISROはその商業部門アントリックス(Antrix)を通じて99年以来、日本を含む他国の人工衛星35機を打ち上げてきた。これも収入源になっている。しかし、2012年には全世界で約3040億ドル(約30兆円)の収入があったとされる宇宙開発市場を、インドはさらに開拓したいとしている。

 インドのコスト削減と「倹約エンジニアリング」の才は、ヒンズー語で「火星の乗り物」を意味する「マンガルヤーン(Mangalyaan)」と呼ばれている今回の火星探査機ミッションで示された。地球の大気圏外に直接衛星を送り込むことができる大きさのロケットがないため、ISROでは安価な選択肢を創造することを意味するインドの「ジュガード」の精神にのっとった。その結果、重量350トンのマーズ・オービターを火星への400キロの旅に直接向かわせるのではなく、約1か月間、地球を周回させて、地球の引力から脱出できる速度をつけさせようとしている。

 今回のミッションで仮に大きな科学的発見がなかったとしても、火星の周回軌道に探査機を乗せることができれば、インドの技術を際立たせることができる。アースツーオービットのモハンティ氏は「インドは『宇宙の金脈』に座っているといえる。インド企業は、ISRO が開発した優れた宇宙関連製品やサービスを活用できる」と意気込む。

 米衛星産業協会(Satellite Industry Association)によれば2012年、全世界の衛星産業全体の収入は1890億ドル(約19兆円)、打ち上げ産業に絞ると22億ドル(約2200億円)だった。支出を抑えるために宇宙ミッションの「外注」に頼る各国の宇宙機関が増えつつある中、ISROには数十億ドル規模の契約を競える可能性もあると専門家らはいう。(c)AFP/Penelope MACRAE