2017年5月18日にインスタグラムに投稿された、元陸軍所属のトランスジェンダー、チェルシー・マニングのポートレート画像のスクリーンキャプチャ(c)AFP

■「アンチジェンダー」の反発

 しかし、この新たな現実は万人受けはしない。「ジェンダーの問題に関して現在、政治闘争が起きている」と、女性史とジェンダー研究に詳しい米国人の歴史家ジョーン・W・スコット(Joan W. Scott)は言う。「ジェンダーは流動的で柔軟なもので、いつでも変えられるものだという考えが広まらないよう、『法的権力』や『アンチジェンダー』団体、つまりバチカン(Vatican)や原理主義的な宗教団体、ポピュリスト、ナショナリスト、さらには中道派や左派の一部までもが結束している」

 世論が分かれるこの話題が自分にとって保守的な支持基盤を支える問題であることにいち早く気付いたのが、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領だ。トランプ大統領は、8月にはトランスジェンダーの人々の米軍入隊禁止措置を命じ、米軍の機密情報を漏えいさせた元陸軍情報分析官でトランスジェンダーのチェルシー・マニング(Chelsea Manning)をかたくなに「彼」と呼び続けた。

■越えられない一線

 フランスでは2013年、同性婚合法化法に反対する大規模な抗議デモが行われ、「私たちの固定観念に干渉しないで!」などのスローガンが掲げられた。また、「伝統的な家族の価値観」や役割を保護する運動も起き、学校で「ジェンダー理論」教育が行われているといった誤った主張をめぐって怒りの声が広まる結果にもつながった。

 フランス人社会学者で「ジェンダーの独裁(原題:The Tyranny of Gender)」の著者、マリー・デュリュベラ(Marie Duru-Bellat)は、トランスジェンダー問題は芸術の世界では積極的に受け入れられている一方で、一般社会では「態度の硬化が見られる」とし、男性と女性の間には越えられない一線があるという考えが強まっていると話す。

 デュリュベラは、カトリック団体の中には「男らしさを教える」セミナーを開催するところがあり、子どもたちの間でもいまだにジェンダーに対する固定観念が根強く残っていることを指摘。

ベルリン市内で「ザ・ワン」のプレミアに登場した(左から)仏人デザイナーのジャンポール・ゴルチエ、オーストリア人シンガーのコンチータ・ウルスト(2016年10月6日撮影)。(c)AFP/dpa/Maurizio Gambarini

「平等とは、男性と女性とが互いを補完することだと考える人は大勢いる」として、「そうした人々にとって、ジェンダーに対する伝統的な型は触れずにそっとしておくべき問題なのだ」と述べた。(c)AFP/Anne-Laure MONDESERT