■演劇だからこそ、それ以外のすべてにこだわる

 いまだに演劇に対して特定のイメージを抱いている人も多いだろう。だが「いわゆるみなさんのイメージする演劇に直結しそうな演劇だけが、今の演劇じゃない」と藤田は考える。「お客様が直接体験する演劇だからこそ、こだわらなくていいところは一つもない。チラシやパンフレットの紙一つをとっても、こだわった紙でチラシやパンフレットを作りたい」。そうして細部にこだわるにつれ、活動に共感して、協力するクリエイターやブランドが集まってきた。「俳優と一緒にやることだけが、演劇だとは思わない」。それは大学生の頃から変わらない藤田の演劇観だという。

 新作公演「sheep sleep sharp」では、「トリッペン」の靴が見えやすいように舞台の高さを調整し、靴に目がいくような衣装を製作した。「僕が見た範囲では、靴にフォーカスされている演劇は見たことない」。公演前の稽古場で、そう笑顔で語る藤田は、新たな挑戦への興奮を隠しきれない様子だった。

靴にフォーカスした演劇に挑戦した新作「sheep sleep sharp」。(c)井上佐由紀

■衣装デザイナーに脚本は見せない

 藤田の衣装へのこだわりは人一倍だ。小劇場でやっていた頃は、形が気になった出演者のブラジャーを指定するほど。今はデザイナーに任せることが多いが、衣装デザイナーに「こういう衣装を着せたい」という具体的な注文はしないという。「ロミオとジュリエット」の衣装ミーティングでも、藤田が大森伃佑子に話したのは「自分や大森さんの10代の時の話や、その頃ってきつかったよね」という漠然とした内容のみ。

「僕がはっきり明言してしまうと、関わる人はその答えに向かって作るようになってしまうから。人と一緒にやるんだからそれでは面白くない。デザイナーから上がってくる衣装が僕のイメージと違ってもいいといつも思っているけど、今までに大きく外れたこともない」

 そのユニークな手法は、総合芸術である演劇だからこそだろう。「僕の作品は、僕だけの作品じゃない。観客にとっての作品でもあるし、そこに関わっている人数分の作品だと思う。だから『ここに向かってください』みたいな言葉は避けながら、いろんな人とコラボレーションしている」

エッセイ「おんなのこはもりのなか」の装丁も名久井直子(2017年4月26日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■少女性を内面から引き出す技術

 藤田の舞台では少女たちが大きな役割を果たし、「ロミオとジュリエット」では女優が男性役も演じて話題となった。そこで描かれる世界観は、ときに「ガーリー」とも評される。「役者が美しく舞台に立っていられるには、内面から少女性を引き出してあげる技術が必要」と藤田は言う。「ただそのまま立てばいいということではなく、役者の実年齢と内面の少女性が、良い現実感で両立できているかにこだわっている。それが大森さんや皆川さんらの『女性に服を着せる』という仕事とも共通しているんじゃないかな」

「マームとジプシー」の少女たちは美しい服をまとい、反復を繰り返しながら走馬灯のように物語を語る。彼女たちの儚さと激しさは見る人の胸を打ち、お話が終わってもなお観客の記憶の中に生き続ける。藤田貴大の瑞々しい感性は、今後も多くの人を魅了し続けるだろう。

■書籍概要
・エッセイ「おんなのこはもりのなか」
価格:1404円(税込)
発行:マガジンハウス

・詩集「Kと真夜中のほとりで
価格:1,836円(税込)
発行:青土社

■関連情報
・「マームとジプシー」公式HP: http://mum-gypsy.com
・「おんなのこはもりのなか」:https://magazineworld.jp/books/paper/2835/
・「Kと真夜中のほとりで」:http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3032
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