【2月24日 AFP】ファッション誌「ヴォーグ(Vogue)」フランス版の表紙にトランスジェンダー(性別越境者)モデルとして初めて起用されたブラジル出身のヴァレンティナ・サンパイオ(Valentina Sampaio)。 22歳の彼女は、昨年ファッション誌「エル(Elle)」ブラジル版11月号の表紙にも登場し、ブラジルでさまざまなオーディションを受けながらトップメゾンのランウェイに起用されることを目指している。

 グリーンの瞳と茶色い髪の持ち主であるシャイなサンパイオは、秋冬コレクションが開催中のミラノ(Milan)でAFPの取材に答え、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)コミュニティにおける模範的存在であることを「誇り」に思うと語った。彼女の夢はイタリアを代表するジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)のモデルを務めることだ。ファッションと名声が、トランスジェンダーへの差別をなくすための闘いへとつながると、ベンチで日差しを浴びながら語る彼女の顔は輝いていた。

 サンパイオは「ロレアル(L'Oreal)」のアンバサダーになる4年前からブラジルでモデル活動を開始した。待望の「ヴォーグ」の表紙に選ばれたことについて「ファッションは人々の偏見を覆す上でとても重要」と語る。米国のいくつかのファッション雑誌はすでにトランスジェンダーモデルを起用しているが、フランスでは今回が初めてとなる。

■ヴァレンティナはヴァレンティナよ

 トランスジェンダーであることを「普通」だと考えるサンパイオは、「より良き世界のために闘い続けたい」と柔らかな口調で語る。「トランスセクシュアル」「トランスジェンダー」「LGBT」といった用語をインタビュー中で使わなかった彼女は、ヘテロセクシュアル(異性愛者)やシスジェンダー(心と体の性別が一致する人)でないことを“異常”ととらえられることに嫌気がさしていると言う。「フアンはフアン、マリアはマリア、ヴァレンティナはヴァレンティナよ」と笑う。

「トランスジェンダー」は生まれたときの性別と性自認が異なる人たちの総称だ。「トランスセクシュアル」は医療行為によって身体を永久的に変える、あるいは変えたいと望んでいる人たちを指す、より古い呼称だ。

 サンパイオは、インスタグラム(Instagram)で約3,5000人のフォロワーを持ち、昨年10月のサンパウロファッションウィークでは「アグア・デ・ココ(Agua de Coco)」や「ヴィトリノ カンポス(Vitorino Campos)」のランウェイを歩き、人々をあっと驚かせた。

■自分は女の子だと

 彼女の人生には、別の道もあったかもしれない。ブラジル北部のフォルタレザ(Fortaleza)で建築を学んでいたが、ファッションを専攻するために中退した。子どもの頃「自分は女の子だと感じていた」というサンパイオは、自身の性自認を尊重してくれた両親の育て方に感謝している。「私は北東部セアラ(Ceara)州に生まれ、その小さな環境ではみんなお互いを尊敬しあっていたので、守られていると感じられた」

 モデル活動を始めた当初は、トランスジェンダーを理由にブランドの広告キャンペーンに断られるなど、不愉快な出来事もいくつかあった。モデルとして「働くのをやめようと思ったほど、すごく嫌だった」が「この仕事が好きだから、それは辞める理由にならないと最終的に気づいた」と言う。

 サンパイオは、トランスジェンダー への偏見や暴力へ立ち向かうブラジル人モデルグループの一員だ。「私がアドバイスできることは、自分自身を信じて、困難にくじけないこと」。フランス版「ヴォーグ」は3月号表紙でゴールドのドレスを着たサンパイオを取り上げ、「ポスト・ジェンダーの世界で進んでいる大義の魅惑的な旗振り役」と称している。(c)AFP/Kelly VELASQUEZ