【2月7日 MODE PRESS】「資生堂(SHISEIDO)」のトップヘア&メーキャップアーティストである原田忠(Tadashi Harada)が、自身初の作品集「原田忠全部」(女性モード社刊) を発表した。同書は新作を含む、180点以上の作品を収録したオールカラー作品集。その制作過程やデザイン哲学も公開し、原田の世界観を存分に堪能できる1冊となっている。

 パリやニューヨークのコレクションをはじめ、著名アーティストたちのミュージックビデオにもビューティーディレクターとして関わっている原田。また人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」や「テラフォーマーズ」 (ともに集英社)のキャラクターを3 次元化するなど、つねにビジュアル表現の可能性に挑戦し続けてきた。そんな日本のトップクリエイターに、その高度なテクニックと独自のセンスの秘密を聞いた。

「原田忠全部」収録作品(c)女性モード社

■時間の洗礼に耐えられるか

 4年がかりで制作された今回の作品集は、原田が2002年~2016年までに手掛けた膨大な作品のうち、「時の洗礼に耐えられるもの」を基準に厳選された。「時の洗礼」とは、時代を越えても通用する美しさと説得力を兼ね備えていること。「これまでずっと、トレンドとは違う時間軸で作品作りをしてきた。だからこそ未来でこの作品集を手に取った人が『昔の本だけど古く感じないよね』と思えるものを目指した」

 本作は、それぞれの作品の内面性を8つの章にセグメントし、ストーリー的に構成されている。「幽世と浮世の領域」「冥闇の領域」など、各章に付けられたタイトルも独特だ。「僕は言葉からインスパイアされ、イメージを膨らませることも多い。だから深みや内面を感じるような、少し含みを持っているような言葉を選んだ」。タイトルの『原田忠全部』には、作品を通じて表現者としての軌跡を感じてもらいたいという気迫が感じられる。「これを通して原田忠という人間を分かってもらえればうれしい」

(左)原作「テラフォーマーズ」作:貴家悠/画:橘賢一(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)©貴家悠・橘賢一/集英社(右)原作「ジョジョの奇妙な冒険」荒木飛呂彦(集英社ジャンプ コミックス刊)© LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

■3次元化されたキャラクターたち

 アニメや漫画をモチーフにする作品は、日本人独自のアイデンティティーを一つの武器にしている原田ならではだ。「デビルマン」や「新造人間キャシャーン」など、自身にとってのヒーローがデフォルメされ、頻繁に作品に登場する。とくに「ジョジョの奇妙な冒険」は2010年から取り組んでいる原田のライフワークだ。「原作のファンだったし、ヘアメイクとして面白い題材だと思った。作者の荒木飛呂彦(Hirohiko Araki)さんのファッショナブルな世界観に影響を受けてキャラクターを3次元化した」。そうして今まで手がけたキャラクターは23体にも及ぶという。

 漫画とリアルを掛け合わせたシリーズは大きな話題となったが、原田は普段から「2次元と3次元をいったりきたりしながら」ヘアメイクを作り上げているという。それは立体的なヘアメイクを平面の写真で表現する上でのフラストレーションを解消するためだ。制作過程で片目をつぶって確認すると客観視でき、プリントになったときと同じように見える。「さまざまな制限はあるが、ある程度角度を決めて、見せたいところに集中してクオリティーを上げていく。そうするとより魅力的な作品に仕上がる」とそのアプローチを説明する。

スタジオでの制作風景(photo Kosuke Tange)