【1月27日 MODE PRESS】アトリエには数々のイメージボードやハンガーラックが並ぶ。「ビューティフルピープル(beautiful people)」は3月のパリ進出に向け、コレクションの準備に追われていた。デザイナーの熊切秀典(Hidenori Kumakiri)は、サンディカ(フランス・オートクチュール・プレタポルテ連合協会)の公式スケジュール上で行う新作発表ついて「モデルが着ている姿と実際の服を見せて、自分でも試着できるようなプレゼンテーションになると思う。服はやはり最終的には自分が着るものなので」と語る。

 着れば分かる、という自信は揺るぎない。トレンチコートやライダースジャケットがブランドの売り上げの4割を占める人気というが「一回袖を通してもらうところまでいけば、もう逃がさない」と着心地へのこだわりは人一倍だ。その上質なクリエーションにはどんな秘密があるのだろう? ブランド哲学とパリへの展望について、あらためて話を聞いた。

2017春夏コレクションより。(c)beautiful people

■見たことのないスタンダード

「どこにでもありそうで、どこにもない」、それが「ビューティフルピープル」の提案する服だ。「今まで見たことなかったスタンダードを作ろう、というコンセプトで10年間やってきた。そこは変わらずパリでもやっていこうと思っている」と熊切は語る。一見オーソドックスに見えるが、実は裁断や素材のチョイスに強いこだわりがある。たとえば定番アイテムの「リバーコート」は、高度なリバーシブル縫製により表地一枚で仕立てている。特別なウール素材を二重織にした風合いや立体的なシルエットなどは、他には真似できないクオリティーだ。「僕らはそういった付加価値を服の中に精一杯詰め込んでいる。袖を通してもらうと、初めての感覚を味わう方もいると思う」

こだわりの詰まった「リバーコート」。(c)beautiful people

■デザイナー川久保玲から学んだこと

「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」のパタンナー出身というキャリアは、熊切の一つの武器と言えるだろう。繊細なところにまで気を配る物作り、そして定番と言われるものを継続していく強さを、熊切は「コム デ ギャルソン」のデザイナー・川久保玲(Rei Kawakubo)から学んだ。「パタンナーは型紙を引く職人であるが、アーティスト的な要素もけっこう強い。同じ型紙でも素材が違うと同じ形にはならない。そういった細部まで川久保さんは追求していた」

 また店舗でTシャツがきちっと重ねられてディスプレイされている様なども日本的で、ある意味「禅」の精神にも似通っているという。「僕はそういった部分を自分の身に叩き込んで『コム デ ギャルソン』を卒業した。今後そういった強みを海外に向けてちゃんと意識していかなきゃいけないと思う」

「ビューティフルピープル」のアトリエにて(2017年1月19日撮影)。(c)MODE PRESS/Mana Furuichi

■人の心を動かすことが仕事

 熊切は32歳のとき、文化服装学院(Bunka Fashion College)の同級生4人でブランドを立ち上げた。「チームでデザインしているので、それぞれの思いが対立することもある。だが僕らは意見を融合してみんなが納得するような形を目指して洋服を作っていく。そういうところもあり、僕らの基本的なテーマはボーダーをなくすということ」

 しかもそのチームプレーが表れているのは、実は服作りだけではない。2017春夏のファッションショーでは、社内メンバーによるバンドが登場。熊切本人も熊の着ぐるみを着てギターを演奏した。そのかわいらしく大胆な演出について「おもしろさやユニークな部分というのは昔から大事にしている。会社名も『エンターテインメント(entertainment)』。人の心を動かすのが僕らの仕事になればいいなと思っている」と微笑む。

ショーの最後に熊の着ぐるみでバンド演奏した(2016年10月20日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

■みんなが美しい人だと信じて

 編み物教室をやっていた母親が文化服装学院の入学願書を用意してくれていたという理由で、この道に入ることになった熊切。それまではファッションは身近なものではなかったが、自然とここまで来てしまったという。「そうなるべきだった、と言うと恰好つけているように聞こえるけれど、やっぱり合ってたんだと思う。ファッション以外にやりたいことはない」と今は一切の情熱をブランドに傾けている。

「パリではゼロからのスタート。だがあらゆる垣根を取り払って、みんなに僕らの服を着てもらえるように一歩一歩努力していく」。ブランド名も、全世界の人々の意味を込めての「ピープル」だと熊切は語る。「『人を見たら泥棒を思え』なんていうことわざがあるけれど、みんな良い人で美しい、と思って生きていたほうが幸せ。パリでも楽しくやりたいなと思っている」。テディベアのウォレットアクセサリーを我が子のように抱っこして、熊切は笑顔を見せた。

「性善説」ならぬ「性美説」ともいうべき信念を掲げて、「ビューティフルピープル」は世界への第一歩を踏み出す。彼らの服を着れば幸せな気持ちになる理由は、根底にあるポジティブな精神にあるのかもしれない。

ライダースを着たベア ウォレットを抱いて(2017年1月19日撮影)。(c)MODE PRESS/Mana Furuichi

■関連情報
・ビューティフルピープル 公式HP:http://www.beautiful-people.jp/
・ビューティフルピープル オンラインショップ :http://www.beautiful-people.jp/
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