【12月14 日 MODE PRESS】27歳の若き天才監督、グザヴィエ・ドラン(Xavier Dolan)の新作映画「たかが世界の終わり」のジャパンプレミアが13日、東京・神楽坂にて開催され、主演のギャスパー・ウリエル(Gaspard Ulliel、32)が来日し、舞台挨拶を行った。

 第69回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)グランプリに輝いたこの作品は、愛しているのに傷つけあうことしかできない、ある不器用な家族の1日を描いた物語。本国フランスでは9月に公開され、ドラン監督の前作「マミー/Mommy」(2014年)を超える大ヒットとなっている。ギャスパーは本作で、自らの死期が近いことを家族に伝えるため12年ぶりに帰郷した主人公ルイを演じた。

舞台挨拶をするギャスパー・ウリエル(2016年12月13日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

■「世界一セクシーな男」と呼ばれる人気俳優

 映画「サンローラン(SAINT LAURENT)」(2015年)でイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)役を演じセザール賞にノミネートされたギャスパーは、フランスを代表する俳優のひとり。その才能と美貌で映画界だけでなく、「ディオール(Dior)」のコレクションや「シャネル(CHANEL)」のフレグランスCMにも出演している。

 今回、7度目の来日を果たしたギャスパーは「コンバンワ」と流ちょうな日本語で報道陣に挨拶。「今回は少しオフタイムをもらって、明日から京都に向かう。京都を訪れるのは約10年ぶりなんだ」と笑顔を見せる。そんな親日家の彼に、今回の話題の新作について語ってもらった。

(c)Shayne Laverdière, Sons of Manual

■「沈黙」という無限の可能性に挑戦

 今回演じた主人公ルイは、「もうすぐ死ぬ」と家族に伝えるために帰郷した劇作家。セリフが少なく、表情だけで心の動きを演じるという難役だった。「やはり沈黙を通して最大限のことを伝えるというのは、俳優としては大きなチャレンジだった」とギャスパーは語る。「でもドラン監督との共同作業はとても興味深いものだ」。シナリオを渡される際に、監督からの自筆の手紙が添えられており、そこには「心配しなくていい。沈黙というものがどれほどの可能性を持っている表現方法かということを共に探っていこう」と書かれていたのだという。

「おそらく僕だけでなく世界中の俳優にとってもドラン監督との仕事は、非常にそそられることだと思う。彼は俳優に対してリスペクトがある。つねに映画製作のアプローチにおいて俳優を中心に置き、特権的なポジションを与える人だ」と分析。「彼は現場で新しいアイデアが浮かぶと、カメラが回り続ける中で『カット』も言わずに『その場でやってくれ』というのがしょっちゅう。この作品はフィルムで撮っているのだけど、ロールが巻き切ったところでようやく終わりになるんだ」とその独特の手法を説明する。

(c)Shayne Laverdière, Sons of Manual

■名優たちによる8日間の真剣勝負

 本作の見どころは5人の実力派俳優の加熱するぶつかり合いだ。ルイの母マルティーヌ役をナタリー・バイ(Nathalie Baye)、妹のシュザンヌ役をレア・セドゥ(Lea Seydoux)、兄アントワーヌ役をヴァンサン・カッセル(Vincent Cassel)、アントワーヌの妻カトリーヌ役をマリオン・コティヤール(Marion Cotillard)が演じる。そんなフランスを代表する一流俳優陣との共演については「みんな名優ばかりで、圧倒されるようなメンバーだった」という。

「俳優全員が揃うのは8日間しかなかった。だから現場でカメラが回ると、みんなすぐに仕事に取りかかろうという勢いがあった」。またドラン監督がデビュー時から同じスタッフと一緒に仕事していることは、現場の雰囲気作りに大いに影響したという。「みんな打ち解け合っていて心地よかったし、監督から『アクション』という声がかかると、一致団結して真剣に取り組んでいたよ」

ギャスパー・ウリエルとゲストの近藤千尋(2016年12月13日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

■ドラン監督作品に登場しない「父親」

 原作はフランスの劇作家、ジャン=リュック・ラガルス(Jean-Luc Lagarce)による戯曲。現代のミスコミュニケーションを象徴するかのような家族の姿を通し、絶望の中の希望を描いている。この作品の骨格となったのは、主人公ルイが1対1で家族のメンバーと語り合うシーンの積み重ねだ。「僕が一番気に入っているシーンは、ルイと母親が対峙する場面だ。ルイは一つの考えをもって家族のもとに帰ってきているわけだが、このシーンで彼は少し方向性を変える。大切なターニングポイントなんだ」

 ここで重要なのは、ストーリーに登場しない父親の存在なのだという。「ドラン監督はどの作品においても、一番重要な人物として母親を描いている。彼の作品では父親はつねに不在で、『欠けたパズルのピース』のようだ。しかしこのシーンでは母親が父親について一瞬、言及する」。登場人物の感情がクライマックスに達する、この映画中盤のシーンの緊張感には誰もが引き込まれることだろう。

 ギャスパーは本作のテーマを「とてもユニバーサルなもの」と捉えている。「だからこそこの映画には力強さがある。そして観客にとっても、自分と家族との関係や心の傷に思いをはせるような、合わせ鏡のような作品になるんじゃないかな」

 日本での公開は2017年2月11日から東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国で順次公開。この衝撃的な愛の物語を目撃しに、ぜひ劇場に足を運んでほしい。

ファンに笑顔を向けるギャスパー・ウリエル(2016年12月13日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

■作品概要
・「たかが世界の終わり」
監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
原作:ジャン=リュック・ラガルス「まさに世界の終わり」
出演:ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ
公開:2017年2月11日より全国順次公開予定

■関連情報
・GAGA 公式HP:http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/
(c)MODE PRESS