【8月15日 AFP】オーストラリア人歌手のカイリー・ミノーグ(Kylie Minogue)と仏パリにあるキャバレー「ムーランルージュ(Moulin Rouge)」のカンカンダンサーの共通点を知っているだろうか?それは、パリの靴メーカー「クレールヴォワィ(Clairvoy)」のダンスシューズを使っているということだ。

 「クレールヴォワィ」はエンターテイメント業界における高級シューズ市場を独占しているメーカーで、1945年に創業。今も当時と同じ場所、ムーランルージュからわずか200メートルのフォンテーヌ通り17番地に店を構えている。

 創業者のEdouard Adabachian氏は当初、個人向けにオーダーメイド靴を制作していた。しかし1960年代頃になると、世界のエンターテイメント業界からの注文が大半を占めるようになった。いまでは毎年生産する300~400足の靴やブーツのうち、演劇、映画、サーカスに使用されるものが80%を占める。

 代々続いてきた店は2006年にムーランルージュに売却されたが、それ以外はほとんど昔のままだ。店内の半分は靴を売る場所、残り半分は有名なパフォーマーのサイン入り写真やカンカンダンサーのコスチュームをディスプレーしたミュージアムになっている。

 床には赤いカーペットが敷かれ、キャバレーの雰囲気が漂う。「タップダンサーたちはここでシューズをテストします」と語ったのは「クレールヴォワィ」のディレクターで靴職人のNicolas Maistriaux氏。ムーランルージュへの売却により、一定の注文が保証され、ビジネスが安定したと言う。

 こうした注文の中でも多いのが、フレンチカンカンで使われるカーフハイのブルーとレッドのミニブーツだ。ヒールが衝撃を吸収して緩和するように作られているため、ダンサーたちはステージの床を何度も力強く蹴ることができる。また、足を長く見せる効果のあるレースと、足首をしっかりサポートするためのチャックもついている。

 「舞台シューズは、技術的にもデザイン的にも高いクオリティーが要求される」とMaistriaux氏は語る。

■俳優やセレブからのリクエストも

 「クレールヴォワィ」には映画界からの注文も多い。最近でば、映画『Guillaume et les garçons à table(Me, myself and Mum)』でハイヒールが使われている。

 アカデミー賞受賞俳優ジャン・デュジャルダン(Jean Dujardin)がマンガを映画化した『ラッキー・ルーク(Lucky Luke)』に出演したときは、「靴の内部を加工して、彼がマンガ同様ガニ股に見えるようにした」と、Maistriaux氏は明かした。

 また歌手のカイリ―・ミノーグが「クレールヴォワィ」に注文を入れたのは、2006年と2008年のツアーのとき。踊れて、足元を見ずに階段を降りられる10センチヒールを、というリクエストだった。

 「クレールヴォワィ」の従業員は5人。「片足分だけをつくるのに250もの工程がある」と、Maistriaux氏は言う。「1足完成させるのに必要な時間は20~60時間です」

 もちろん、値段もそれなりにする。カイリーのようなオーダーメードのハイヒールは、1500(約20万円)から2000ユーロ(約27万円)。男性用のオーダーメイドシューズだと3500ユーロ(約48万円)ほどかかる。それでもパリの歴史を感じたいなら払うだけの価値がある値段だとMaistriauxは言う。「美しく、履き心地は最高で、時代に左右されない靴です」(c)AFP/Caroline TAIX