【8月15日 AFP】1985年、サンフランシスコのキッチンテーブルでニック・グラハム(Nick Graham)が、男性用アンダーウェアブランド「ジョー・ボクサー(Joe Boxer)」を立ち上げたとき、その経験は彼に二つのことを確信させた。

■メンズファッションに現れ始めた「微妙な変化」

 まずニックは、柄やカラーは、女性ファッション特有のものであるべきではないと結論づけた。そして、選択肢さえ与えられれば、男性も常に新しいものを試そうとするはずである、と考えたのだ。

 それから30年近くの時が経ち、今年6月に開催されたパリ・メンズコレクションは、鮮やかなカラーと大胆なプリントであふれていた。柔らかなひらひらとした素材、きらびやかな花の刺繍、そしてスカートまでもが登場し、フェミニンさを印象づけた。

 ニックはキャットウォークに登場するものが「市場の上位1%」の層に向けて制作されたものであることを認めたうえで、しかしそれは男性の「微妙な変化」を表していると語った。

 「私たち男性は斬新さを求める生き物だと思います」。グラハムは自身のメンズウェアブランドの制作を進めているサンフランシスコから、電話でAFPの取材にコメントした。「男性はもっと冒険してみたいと思う種類の人々なのです。周りや自分を脅かさない程度にですが・・・」

■30年前に感じた可能性を今、ビジネスチャンスに

 1990年代後期にニックは「ジョー・ボクサー」のビジネスで年商約1億ドル(約98億円)を達成。自らに「最高パンツ責任者(Chief Underpants Officer)」の称号を与え、そのユーモアセンスをブランドに生かしていることで広く知られていた。英エリザベス女王(Queen Elizabeth II)に扮して、ニューヨークのタイムズ・スクエア(Time Square)の上で自らクレーンに吊るされるという芸当をやってのけた過去もある。またある日は、200人の雑誌編集者をアメリカからアイスランドへ送り、海賊に扮したモデルがアイスランドの国歌を歌うという一風変わったファッションショーを取材させた。

 ニックの新事業となる2014年のスポーツウェアコレクションは、破産の危機にあった「ジョー・ボクサー」を2001年にWindsong Allegianceに売却した後、10年以上の時を経て再稼働しはじめた。ブランドはその後2005年にアイコニックス ブランド グループ(Iconix Brand Group)に売却されている。

 ニックは30年前にメンズ市場で見出した可能性が、ようやく大きなビジネスチャンスとして花開く時が来たと考えている。

■流行を追い始めた男性たち

 昨年、経営コンサルティング会社「べイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)」が出したデータによると、メンズファッションの全世界を合計した収益は、前年比10%増の260億ユーロ(約3.4兆円)と試算される。

 ニックによると、男性は今、かつてないほど自分の服装に関心を持っており、パートナーや妻に頼るよりも、自分で服を買うようになっている。1980年代は男性用下着の購入者の80%が女性だったのに対して、現在はその割合が20%になっている。「女性服の売り上げは常に男性の2倍です。女性と男性の人数に差があるわけではなく、単純に女性が男性の2倍の買い物をするからです」

 彼は男性のファッションに対する姿勢は、下着に対する変化が現れたことをきっかけに変わり始めたという。「男性は自分の下着により関心を持つようになったのです。今、それが普段着にも表れ始めています。スカーフ一枚が変わるくらいのとても些細な変化ですが、確かに変わり始めています」

 メンズファッションが発展してきた背景には、インターネットショッピングの存在も大きい。グラハムによれば、ネットショッピングは男性の買い物の仕方に合っており、その結果、男性たちが様々な服を目にするようになったという。「特にメンズウェアのオンラインサイトで、一番成功しているのはネッタポルテ(Net-a-Porter)ですね。すごいビジネスです、過去2年間うなぎ上りで絶好調ですからね」「これによってミルウォーキー(Milwaukee)に住む男性は、今まで見る機会もなかった服をチェックできるようになったのです」

 そして初めて、男性たちはエディ・スリマン(Hedi Slimane)の影響を受けて市場に出回ったスキニーなシルエットのスーツなど、ファッションのトレンドを追い始めたという。

■メンズファッション市場で新たな可能性を探る

 ニックの目下の目標は、男性たちの服装やスタイリングをよりクリエーティブにすることで、彼らに自分を表現する機会を与えることだ。「女性は非常に多くの選択肢を持っていますが、一般的な男性は6~7程度のパターンで着まわしていることがほとんどです。私はそのような状況を変えて、男性に、一枚の平凡なシャツをどのように個性的なものに変えていけるかを提案していきたいのです」(c)AFP/Helen ROWE