【2月4日 MODE PRESS】立春を迎えましたが、寒さはもう少し続くのでしょうか。そのうえノロやらインフルエンザやら、美食の大敵となるウィルスが蔓延しているようで、身を守る為のマスクが手放せない毎日です。具合が悪いと楽しく食事ができませんし、体調を崩してなんていられません。とにかくこの時期は栄養をしっかり取って、英気を養う必要があります。

 というワケで、今回取り上げたいちょっとリッチな食材は「フォアグラ」。キャビアやトリュフと共に“世界の三大珍味”ともてはやされ、ロッシーニはじめ歴史に名を残す多くの美食家たちを魅了してきた贅沢品です。今では年中市場に出回っていますが、昔は秋から春先の間に生産される寒い時期ならではの食材でした。特に歴史が古いのは、グルマン垂涎の「ガチョウのフォアグラ(Foie-gras de d'oie)」。私たちは「鴨のフォアグラ(Foie-gras de canard)」をいただく機会のほうが多いでしょうか。いずれにせよ、あの艶やかな食感と、品のあるコク、そして口に含んだ際の複雑な味わいの妙は、食する者を何とも言えない至福の境地へ誘います。

■フォアグラ×ワインの甘い関係

 フォアグラ料理の極上の味わいを更に魅惑的なものにさせるのが、お供にいただくワインです。定番は、ボルドー地方のソーテルヌや南西地方のジュランソン・セックといった甘口タイプ。ハチミツに漬けたアプリコットのようなアロマと緻密なとろみを持った極甘口ワインは、フォアグラのキメ細や且つボリュミーな脂と見事なハーモニーを奏でます。特にハチミツとバルサミコを使った艶のある「フォアグラポアレ」には、たっぷりとした甘味と酸味、そして品格を持ち併せたソーテルヌが、否応なしにマッチします。

 もちろん、辛口ワインで楽しめるフォアグラ・マリア―ジュも沢山あります。例えば、よく前菜でいただく「冷たいフォアグラのテリーヌ」のような、比較的軽めのフォアグラ料理。こちらに極甘口ワインを合わせると、ワインのボリューム感が料理にやや勝ってしまうかもしれません。そんな時に上手くマッチするのが、蜜やお花のような華やかなアロマを持ちつつも、味わいはキリっとドライなタイプ。アルザスのリースリングやゲヴェルツトラミネル他、ソーテルヌ地方で造られるセミヨン主体の辛口ワインなどが挙げられます。フォアグラのボリューム感に甘く魅惑的なアロマを合わせながら、フィニッシュを爽快な余韻で〆る――そうすることにより、次のお料理へも軽やかに移行することができるはずです。

 また、フォアグラのお供に更なる華やかさと軽快さを求めるのであれば、マリアージュの万能選手であるシャンパーニュも使えます。ただ、あまりフレッシュで爽快すぎるタイプよりは、黒ブドウ比率が多いものや、ドサージュ(門出のリキュールを加え甘辛度を調整すること)がしっかりなされているもの、また長期熟成を経ているものなど、ふくよかなタイプがオススメ。シャンパーニュならでは繊細な泡のニュアンスと奥ゆかしいふくらみが、なめらかなフォアグラの旨みを巧みに惹きだしてくれるに違いありません。

■海のフォアグラ

 そしてもう一つ、今回注目したいのが“海のフォアグラ”――そう、いわゆる「アン肝」です。これまで、アンコウ鍋など和の食卓でいただく機会が多かったのですが、先日お邪魔したワイン会では、アン肝を使った素敵なフランス料理に出会いました。その逸品の名は「アンコウとアン肝のフリット」。大阪は北浜にあるフランス料理店「エッサンシエル」の大東シェフが、目玉ワインのひとつ「2007 登美」の赤に合わせて考案してくださったメニューです。登美はカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロを主体とした、骨格のしっかりしたボルドースタイル。豊富なタンニン、心地よい樽のニュアンスに加え、余韻になめらかな旨みを持つ一本です。一方アンコウ自体は味わいがやや淡泊なので、「登美」と合わせてみるのは多少なりとも挑戦だったはず。しかし、シェフは素材をフリットにしてボリューム感を出し、更に濃厚かつ独特の風味を持つ“キモ”と合わせることで、ふくよか且つ果実の凝縮感に満ちた登美との見事な調和をもたらしたのです。

 新たなマリアージュに出会ったときの気持ちの高揚感――これはワインラヴァーのみぞ知る、魅惑的な体験です。そして、その食材が官能的であればあるほど、マリアージュの魔力から我々は逃れられなくなってしまいます。アン肝と登美が口の中で融合したとき、禁断のフォアグラ・マリアージュに溺れていったロッシーニがふと頭をよぎったのでした。

さぁ、みなさまにとっての「禁断のマリアージュ」は、なんですか?【瀬川あずさ】

プロフィール:
聖心女子大学卒業後、施工会社の秘書を務め、飲食店の企画、設計、施工業務に携わりながら、レストラン巡りに没頭する。その後趣味が高じて、フードアナリストならびにワインエキスパート資格を取得。現在は、記者・ライター業、ワインスクール講師、飲食店メニュー開発などを務め、食を通じた豊かなライフスタイルを提案するべく活動中。
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