【12月20日 marie claire style】駆け出しの頃、私はTBSでドラマのアシスタント・ディレクターをやっていた。毎週ベテラン俳優たちを主演にむかえ大人の人間模様を描く「東芝日曜劇場」という番組だった。杉村春子や若尾文子のような昭和の大女優との仕事は映画ファンの私にとって夢のような経験だった。それに何よりもTBSドラマに憧れがあった。特に『悪魔のようなあいつ』(1975年)は途轍もない衝撃を与えられた忘れられない1作だ。このドラマをプロデュースし演出したのは久世光彦。『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー一族』などの独特なユーモアでお茶の間を席巻し、数多くの名作を世に放った名匠だ。『悪魔のようなあいつ』は未解決の"三億円事件"の時効が迫る半年前に放映され、実際の犯人がこういう人間だったらという仮説を淫美で頽廃的な世界観に飛躍させた荒唐無稽なドラマだった。人気作詞家の阿久悠が原作で、主役を沢田研二が演じたのも話題だった。白シャツにサスペンダー、中折れ帽を被ったダンディーなスタイルで「日蝕」という横浜の港町のバーで歌を歌う男娼の主人公。かつて、養護施設で育った彼は、足の不自由な妹の面倒を見ながら自動車整備工として働き、社会に不満を抱いて3億円を強奪した。それを隠し持ちながら時効を待っているが、彼を犯人と目星をつけた老刑事の執拗な捜査で犯行を暴かれ、その金に狂わされた者たちによって追い込まれていく。女性の裸体、セックス描写、殺人などの場面も大胆に描かれ、沢田研二が弾き語りで歌う「時の過ぎゆくままに」はドラマと同時に大ヒットした。そんなエッジの利いたセンセーショナルで過激なドラマだった。

 それと並び『岸辺のアルバム』(1977年)も忘れてはならない名作だ。脚本の山田太一は、1974年に起きた多摩川水害で家を流された被害者が、「家族のアルバムを持って出ればよかった」と言っていたインタビュー記事から着想を得て、それまでの健全なホームドラマを覆すような家族の実態を掘り下げた作品を書いた。亭主関白な夫に文句も言わず家庭を守る貞淑な妻が不倫をし、大学生の娘は外国人にレイプされ妊娠し堕胎する。経営が傾いた会社の命令で東南アジアの女性の不法入国を斡旋する仕事に夫は手を染め、受験を控える息子は、家族の秘密を知って失望し家出をする。それぞれの鬱屈が積み重なり、やがて綻び崩壊する家族にさらなる試練が降りかかる。大雨で増水した濁流が堤防を決壊させマイホームが流される。窮地に立たされた時、彼らが最後に家から持ち出したのはアルバムだった。川に流されていく我が家を眺めながら、すべてを失った家族は絆を取り戻そうと思う。失ってはじめてその大切さを知る。演出の鴨下信一は、のちに『ふぞろいの林檎たち』や『高校教師』などを大ヒットに導いたテレビドラマの巨匠だ。私は彼に師事したが、彼はこんなことを言っていた。「映画とテレビドラマは似ているが全く違う。映画は普遍的なテーマを扱い、いつの時代にも通じるものを描くが、テレビは現在を映し出すものじゃないといけない」と。『悪魔のようなあいつ』も『岸辺のアルバム』も社会の歪みをテーマにテレビが率先して"今"を映し出していた。時代を切り裂き人間の本質に迫る、歴史に残るテレビドラマは圧倒的に面白かった。作り手たちの自由を奪うコンプライアンスやクレームが横行する今の時代を憂うばかりである。

■ドラマ放送情報
CS放送「TBSチャンネル2」では、1月から3か月にわたって行定勲監督が選ぶTBS名作ドラマを特集。2月は『悪魔のようなあいつ』、3月は『岸辺のアルバム』を放送します。

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■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

■関連情報
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada