【11月8日 marie claire style】秋の夜長に聴きたい小粋な一枚『The Hottest NewGroup In Jazz』はデイヴ・ランバート、ジョン・ヘンドリックス、そして今回の主役、アニー・ロスによるジャズ・ヴォーカル作品である。ソリストが奏でた即興のメロディに合わせ、歌詞を当てはめて歌うヴォーカリーズというスタイルで一世を風靡した彼らの軽快で楽しいこの作品に、アニー・ロスのハスキーヴォーカルは欠かせないものだった。

 1930年にロンドンで生まれたアニー・ロスことアナベル・アラン・ショートは、4歳の時に家族と共にニューヨークに渡った。両親はヴォードヴィルの一員として活躍していたこともあり、彼女は幼い頃から歌や演技を披露することが好きで、ニューヨークに移り住んでからすぐに子供向けのラジオ番組でその才能を見出され、異例の若さでMGMと契約を交わした。間もなくしてアニーは両親の元を離れ、叔母と共にショービズ界の聖地、ロサンゼルスへと移住。幸運にも人気絶頂のジュディ・ガーランドの妹役に抜擢され、スクリーン・デビューも果たす。14歳で作曲家としての才能も発揮するようになると、演技よりもシンガーとして活動することを望むようになり、彼女はヨーロッパへと渡り、アニー・ロスという名義で本格的に歌手活動をスタートさせた。

 22歳になったアニーはレコードレーベル・オーナーのボブ・ワインストックに出会い、サックス奏者ワーデル・グレイ作の「Twisted」に歌詞をつけてくれないかと依頼され、歌手キング・プレジャーと共にレコーディングしこの作品は小さいながらもヒットを飛ばす。その後、デイヴ、ジョンとヴォーカリーズの旗手として意気投合した彼女は7作のアルバムを生み出し、歌手としての地位を確立していった。

 アニーはドラマーだったケニー・クラークとの間に男の子をもうけるものの、歌手活動の中でヘロインに手を出すようになり、自ら息子を育てることはなかった。他の男性とも関係を持ち、ドラッグ依存から抜け出すことができず苦しい日々を送るようになる。さらにその後、俳優と結婚するも長くは続かず、離婚後に破産するなど、歌手としての華やかな活動の裏で、プライベートは壮絶なものであった。

 そんな波乱万丈な人生を送りながら、88歳になった彼女は歌手として未だに第一線から退いていないというから驚きである。アニーの80歳のバースデーパーティーはニューヨークのダウンタウンで開催され、旧友のジョンがお祝いに駆けつけた。ふたりは再びマイクの前に立ち、彼らが愛した歌を披露する。多くの観客に祝福された彼女の顔には幸せが満ち溢れていた。

■プロフィール
多屋澄礼(Sumire Taya)
1985年、東京都出身。インディ・ポップという音楽ジャンルを軸にイラストレーター、ライター、DJとして雑誌や本などで執筆を手がける。女性DJグループ、Twee Grrrls Club主宰。レーベル&ショップ、Violet And Claireのオーナーとして、女性作家や海外の雑貨などをセレクト。2012年、Twee Grrrls Clubの著書として『インディ・ポップ・レッスン』を刊行。その後、アレクサ・チャン著『IT』の日本語版の翻訳を手がけ、15年には女性ミュージシャンのライフストーリーを綴った『フィメール・コンプレックス』、京都のガイドブックとして『New Kyoto京都おしゃれローカルガイド』を刊行。

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(c)marie claire style/selection, text, illustration: Sumire Taya