【9月13日 marie claire style】「とても美しいリップよね、でも少し遅かったわ」「マダム、これはとても人気なのよ。手に入れるならもっと早く来なきゃね」「ここだけの秘密よ、火曜日に追加で届くかもしれないわ」。これは少し前に渡仏したとき、フランスのコスメストア「セフォラ」で交わした会話だ。ショッピングでのこのようなやり取りは、この国ではお決まりの前口上だ。しかし、この何気ない会話によって、魅惑的な禁断のリップに一層惹きつけられる格好となった。それが「ジバンシイ」の"ルージュ・アンテルディ"だ。

 1957年、ユベール・ド・ジバンシィ氏が生涯ミューズとして愛し続けたオードリー・ヘップバーンへ捧げるためにクリエイトした香水"ランテルディ(L’interdit=禁断)"。オードリーが「私以外この香水を使ってはダメ」と言ったというエスプリの効いた逸話がネーミングの由来となった。それ以降、ジバンシイではいくつかの製品に〝アンテルディ〞が用いられ、ブランドを代表するシリーズとして位置づけられているのだが、そのフィロソフィーを色濃くひいたのがこのルージュだ。

 化粧品のなかでも、リップはその時代の機運をもっとも反映するものだと私は考えている。色や質感などの組み合わせによってブランドが"ときの女性"をどう解釈しているかがわかるからだ。2007年に誕生した"ルージュ・アンテルディ"は、大胆さや妖艶さを打ち出すことで可愛らしくあるべきとされた女性像に一石を投じた。"I was here."のキャッチコピーとともに誕生した17年のコレクションでは、ジバンシィ氏が大切にしたエレガンスの象徴、ブラックをマーブル状に配合。女性美を強調しつつも、気品と威厳を表現することに成功している。このブラックはまた、唇のpHに反応してオリジナルのカラーを導き出すという処方も備えている。自分らしいセンシュアリティーを大切にする現代女性の欲求をいち早く満たした名品といっても過言ではないはずだ。そしてもし、可憐な奔放さと知性を持ったオードリーがこの"ルージュ・アンテルディ"と出逢っていたら、陶酔したことは想像に難くない。

 今年3月、ジバンシィ氏が91歳の人生に幕を閉じた。2人が築き上げてきたオートクチュールの"ベル・エポック"ともいうべき時代のムードを、残念ながら私は知らない。だからこそ、彼らの美意識が透けてみえるルージュとフレグランスを身に纏ってそのエスプリを感じていたいのだ。

■プロフィール
小西俐舞ナタリー(Nathalie Lima Konishi)
フランス人の父を持つビューティアクティビスト。モード系美容誌編集を経て独立後、日本や海外の美容媒体をメインに、コレクション速報や取材現場で得た美容メソッドなどを中心に執筆中。レインボータウンFMのラジオ番組「Nathalie’s Beauty Talk」では第2木曜と第5土曜にフランスの最新情報などを紹介している。

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(c)marie claire style/selection, text, photo: Nathalie Lima Konishi