【9月13日 marie claire style】フォークロアやアニマル柄など、ファッション界では1970年代スタイルがまだまだ注目されているご様子。自由な発想で洋服を遊んだこの時代、スイス時計業界は厳しい冬の時代でした。原因は、1969年に日本のメーカーが開発したクォーツ式の腕時計。職人技術を必要とせず、電池とICで正確に動いて大量生産できるクォーツムーブメントの登場で、伝統的な機械式時計は過去の遺物に追いやられてしまったのです。多くの時計ブランドや関連会社が倒産・休眠を余儀なくされ、大勢の職人たちが職を失いました。しかし80年代半ばごろから、機械式が復活の兆しを見せ始めます。後に傑作と呼ばれる革新的なモデルがいくつか登場し、クォーツにはない機械式ムーブメントの工芸的な美しさや、繰り返し修理をして長く使える点などが改めて見直されるようになったのです。

 フランク ミュラーは、そんな機械式時計の冬の時代に咲いた一輪の花でした。大きな懐中時計でしか作り得なかった様々な複雑機構を腕時計サイズで実現した天才時計師は、機械式の魅力を多くの人に再認識させた功労者の一人。同時に彼は、優れた美的センスの持ち主でもありました。1992年、自身の名を冠したブランドを設立。この時、誕生したのが今もブランドを象徴する「トノウ カーベックス」です。ケースもダイアルも一切の平面と直線を持たず、曲面と曲線だけで構成された複雑なフォルムは、クラシカルではあるけれど、新鮮さと独創性を湛えています。優れた造形美は、本人曰く「球体の一部を切り取るようなイメージで創造した」とか。そのダイアルに置く柔らかで流麗なビザン数字も彼のデザイン。一目でそれと分かり、美にも長けたアイコニックな「トノウ カーベックス」は、機械式時計再興を象徴するモデルなのです。

■プロフィール
髙木教雄(Norio Takagi)
1962年生まれ。ライター。時計を中心に建築やインテリア、テーブルウェアといった「ライフスタイルプロダクト」を取材対象に専門誌や雑誌で幅広く執筆。スイスの新作時計発表会の取材も、99年より継続して取り組んでいる。独立時計師フランソワ・ポール・ジュルヌ著『偏屈のすすめ。』(幻冬舎)の監修・解説も担当。

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(c)marie claire style/selection, text: Norio Takagi