【7月26日 marie claire style】ニューヨークを代表する建物と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?『キングコング』や『めぐり逢えたら』など多くの映画に登場したエンパイアステートビル、あるいはクリスマスツリーやスケートリンクでお馴染みのロックフェラーセンター、それとも外観でひときわ異彩を放つクライスラービルでしょうか。これら3つの高層ビルが建てられたのは、1930年代。当時流行していたアール・デコ様式の代表作であり、直線や円を組み合わせた幾何学的な美観を備えています。同じ時代、時計界は懐中時計から腕時計への移行期でした。そしてアール・デコの影響を色濃く受けた腕時計が、数多く生まれています。懐中時計ではあまり試みられなかった角型やトノー型の腕時計は、時代の最先端でした。

 カルティエ ウォッチの永遠のアイコンであり、角型時計を代表する「タンク」は、さらに時代の先を行っていた傑作です。アール・デコという言葉が生まれたのは、1925年。タンクの誕生は、それよりも早い1917年なのですから。当時は、第一次世界大戦の最中。3代目ルイ・カルティエは、この大戦で初めて使われた戦車=タンクからインスピレーションを得て、新たな時計のフォルムを創造しました。最初のスケッチは、正方形の左右の辺を上下に伸ばした4本の直線だけで描かれていたとか。横の辺から上下に突き出す4本の縦線が、ストラップを留めるラグ。アール・デコという言葉がなかった頃、ルイ・カルティエは簡潔な直線だけでケースとラグとを完璧に調和させたのです。さらにダイヤルとラグ間の幅を同じにすることで、そこに取り付けるストラップとの一体感をより高めています。時代の先を行ったタンクは、ほぼ変わらぬデザインで100年以上作り続けられている腕時計。機械式時計が100年使い続けられる事実を、証明しています。

■プロフィール
髙木教雄(Norio Takagi)
1962年生まれ。ライター。時計を中心に建築やインテリア、テーブルウェアといった「ライフスタイルプロダクト」を取材対象に専門誌や雑誌で幅広く執筆。スイスの新作時計発表会の取材も、99年より継続して取り組んでいる。独立時計師フランソワ・ポール・ジュルヌ著『偏屈のすすめ。』(幻冬舎)の監修・解説も担当。

■関連情報
機械式時計女子をまとめた特集ページはこちら
【無料ダウンロード】marie claire style PDFマガジンをチェック!

※記事内の商品価格はすべて、本体のみ(税抜)の価格です。
(c)marie claire style/selection, text: Norio Takagi