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【7月26日 marie claire style】"未知の選択肢や見たことのない世界を無条件に選ぶ"というのは私の信条だ。あるとき、そんな探究心を搔き立てるような幸運に恵まれた。江戸後期より約200年続く世界唯一の紅屋「伊勢半本店」が作る「小町紅」の原料、最上紅花を摘みに行く機会を得たのだ。向かうは、山形県最上川流域。東京から列車を乗り継ぎ約3時間半、のどかな空気に包まれた白鷹町に到着した。

 夏至から数えて11日目の半夏生、一輪の蕾が眼を覚ますのを合図に、いっせいに咲きはじめるという紅花。3世紀頃から化粧品として皇族や貴族のみに重宝された紅。町人文化が開花した江戸時代に庶民へと広まり、日常から婚礼などの通過儀礼に至るまで欠かせないツールとなった。なかでも、伊勢半本店の職人が作る玉虫色に輝く「小町紅」は、金一両と取引されていたほど高価な品。現在ではたった2人にしか伝承されていない秘伝の技術だという。

 心遣い溢れる郷土料理を堪能したら、宿の温泉に身をしずめる。東京であればまだ仕事の時間帯。ふと、早起きできるのか不安になる。というのも、紅花摘みは朝露でトゲが柔らかくなる日の出とともにはじまるからだ。アンバランスな気持ちを抑えながらも、懐かしい匂いの布団に包まれてぐっすり眠った。

 翌朝、ひんやりとした空気に鳥のさえずりが心地よく響く。鮮やかな緑のなかに姿を見せた可愛らしい紅花を目の前にすると、日本ならではの静寂美を感じた。とはいえ、今回の任務は紅花摘み。色素を最も含む7分咲きの花を手早く摘んで腰籠へ入れていく。昔は京のお姫様に献上するものだったことから、村の娘たちは一生その紅をさすこともなくトゲで手を血に染めたという。実際、革の手袋のうえからでさえもその痛みを感じとれるほどだった。無心になること2時間半、朝には空だった腰籠が花弁で溢れるほどになった。

 このように、日本美容のルーツを知るうえでまたとない経験となったわけだが、私が紅花に惹かれる理由をもうひとつ。それは紅が、自身の唇の色に溶け込んで似合う色へと自ずと変化するということだ。つまり、これからお化粧をはじめる女性や似合うカラーが分からない方にも最適ということ。私といえば、夕日を思わせるような赤に染まった。最上河畔に広がるあの紅花の里は今頃、真夏の太陽が降り注いでいることだろう。「小町紅」が再現する橙赤を見ると、私と山形の里をつないでくれるかのような気持ちになる。

 女性の美に対する探求。その第一歩は自分を正しく知ることからだと感じる。まずは自身に似合う赤を見つけるために、唇に紅をさすことからはじめてみるのはどうだろう。

■プロフィール
小西俐舞ナタリー(Nathalie Lima Konishi)
フランス人の父を持つビューティアクティビスト。モード系美容誌編集を経て独立後、日本や海外の美容媒体をメインに、コレクション速報や取材現場で得た美容メソッドなどを中心に執筆中。レインボータウンFMのラジオ番組「Nathalie’s Beauty Talk」では第2木曜と第5土曜にフランスの最新情報などを紹介している。

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(c)marie claire style/selection, text, photo: Nathalie Lima Konishi

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