【6月28日 marie claire style】深奥に至るまで、鋭角に尖らせるのは無理だとしても、五感の資質を鍛えるというのは、今の時代の流れのようだ。経営陣だからといって、アートを敬遠していては社会に取り残されてしまうし、その反面、アート界からも起業家が次々に生まれている。

 最近『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』という本がベストセラーになっている。アートはこれからの課題ではなく、今現実に直面している時代現象といえる。

 日本を代表する画廊主として、ピカソとも交流があり、ルオーや梅原龍三郎、ジャコメッティまで扱っていた銀座の吉井画廊の吉井長三を父にもつ吉井仁実は、現在コンテンポラリー・アートのジャンルで、脚光を浴びる存在だ。

 六本木の交差点から少し入ったところに、篠山紀信や杉本博司のエディション作品などを扱うギャラリー・ヒロミヨシイというコンテンポラリー・アートの画廊を経営している一方、そのギャラリーの傍らで、わずか8席しかない本格的江戸前の「鮨よしい」を開店したことからしても、彼の斬新な時代感覚が窺われる。それだけでなく山梨にある父・吉井長三が私財を投じて造った「清春芸術村」に、今新たな息吹をもたらそうとしている。

「ゆっくり滞在して観てもらうために、近々、杉本博司設計のゲストハウスをオープンするつもりです」

 さらりといってのけたが、世界の杉本ファンがそれをきいたら狂喜することだろう。

「でも一日一組だけです」。いかにも生まれついての幻視者のように、時折どこか遠くに視線を向けるその様子からして、摑みどころがない人柄のようだ。

──コンテンポラリー・アートの現状についてきかせてください。

「数年前『現代アートバブル』という本を出しましたが、このところの世界のアート・マーケットの高騰ぶりには、驚かされます。

 ダ・ヴィンチの『救世主』が約500億円で売れたり、日本人のコレクターがバスキアの肖像画を約123億円で買ったりする。そうした状況について、目下、新たに新書を出そうと執筆中です。現代アートは、これからは都市計画の一部なのです」

──国内でのアート事情については?

「これだけ地方に美術館のある国は他にないと思う。それなのにそれが活かされていないのは残念です。いわゆるハコモノとして、負の遺産にしてしまっている」

──直島のような成功例もありますね。

「直島はアートの島として成功しています。地方都市で、アートをその町にとけ込ませて成功しているところもあります。越後妻有アートトリエンナーレや別府現代芸術フェスティバルがいい例です」

──東京はどうですか?

「パリには国際アートフェア FIACがあって、それこそ街ぐるみであるし、市民のお祭り騒ぎになっている。東京ではアートフェアがあっても、まだ一般の人まで巻き込んでいないような気がするのです。日本では、アートは一部の人の興味の対象だと思われている」

 世界のコンテンポラリー・アート界で垂涎の的の杉本博司作品を眺めながら、極上の寿司を食べる、という至福の空間を生み出し、日本でもアートを街ぐるみにしたい、という吉井仁実の野望に、これからも大いに期待したいものだ。

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(c)marie claire style/photo: wataru yoneda/text: Kasumiko Murakami