【5月31日 marie claire style】グラスから溢れ出た水は、ゆるやかにコースターに吸い込まれていく。微かな流れは、自然と周囲に同化していくものだ。

 今の時代、PCとコンビニさえあれば、大自然の環境に囲まれながらでも、充分に都会的な生活が送れるのではないか。知らぬ間にそういう時代になっているし、以前は明白だった地方と都会との落差も、今では相当希薄になってきている。必要な時はネットで告知さえすれば、遠路はるばる人が集まってくるという。そうした時代の流れの中、悠々自適に富士吉田のアトリエで、自然の中で豊かな生活をしながら、上質なリネン素材で服作りに専念している人たちがいる。「オールドマンズテーラー」という布製品会社のデザイナー、しむら祐次さんとしむらとくさんのふたりだ。

「僕たちはパリまでいって、コレクションをしようとは思いませんよ。東京に住みたいとも思わない」

 初対面の時、窓の向こうに壮大な富士山の景色が広がるアトリエで、祐次さんがそう語っていたのが印象的だった。確かにそれ程までに恵まれた環境を捨てて、東京に出る理由がどこにあるだろうか。それだけではない。その日は展示会だったのだが、そこには東京でも顔の知られたスタイリストたちが、わざわざ富士吉田まで足を運んできていたのだ。

「僕らは地元の人間なので、ここにあるものを使って、なにかオーセンティックなものを作れないかと思ったのです。最初はネクタイを作っていたのですが、ネクタイの世界は狭く、もっと自由にものを生み出したい、と思った」

 もっぱら話をするのは祐次さんの方で、とくさんは時々相槌を打っている。

 蔦の葉の色、水辺の濡れた泥の色、朝露の色、朱色の花の色。ユニセックスなので男性も女性も、色に敏感な人なら、「オールドマンズテーラー」の自然界から生まれた色のコートやジャケット、シャツ、パーカーに、夢中になるのではないか。ゆったりしたオーバーサイズは着心地もよく、一生ものになるかもしれない。素材の多くは、富士山の水で洗われ、独自の色に染められた繊維だそうだ。

 お洒落の究極にいきついたダンディや、本格的な素材しか身につけたくない気難しい女性たちに好まれているそうだが、手軽で安価なものが流行る一方で、こうした趣味のいい国産の上質なものに魅かれる客層も少なくないという。

 富士山駅の近くにある直営店の2階にはヘルシー志向のカフェがあり、富士山の麓への日帰り旅にぴったりといえる。「オールドマンズテーラー」のアイテムは、もちろんネットでも見ることができる。

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(c)marie claire style/photo: wataru yoneda/text: Kasumiko Murakami