【5月29日 marie claire style】ひとくちに映画といってもいろんな種類の映画があるのは言わずもがなである。

 SF超大作、甘美なラブストーリー、緊張感あふれるサスペンス、手に汗握るアクション巨編。娯楽こそが映画には不可欠な要素だろう。その反面、光と影で描かれた映像美や、人間の心をえぐる心理描写に真実を見いだすような映画を望む者もいるだろう。

 私はジャンルを決めつけて映画を作ることはしないし、他者の作った映画にもそのような要素を求めて観ることはない。どちらかというと人間の曖昧な感情を描いた映画を好んで観ることが多いように思う。誰の人生にも起こる些細な出来事を映画にすると、こんなにも面白いのだということを教えてくれる映画に惹かれるのだ。これは私のことだと映画の中に自分を投影し、共感させてくれた映画を作ってきたウディ・アレンやエリック・ロメールに影響を受けてきた。彼らの映画にはユーモアあふれる会話があり、監督自身の性に対する赤裸々な感情の吐露があり、何者でもない人間の小さな苦悩が描かれるところが面白い。その人間味あふれる滑稽な姿に、こういう映画があってもいいのだと喜びを覚えるのは私が年を重ねた賜物か。

 どうしようもない男女の関係を描かせたら右に出る者はいない監督がいる。私の敬愛する韓国映画の巨匠ホン・サンスだ。待望の4つの作品が日本で公開される。いずれも2015年から2017年に撮られた映画なのだからホン・サンスは多作であることがわかる。人生の断片をスケッチするように表現する彼だからこそ、日常に生まれた理不尽な感情や人間関係の複雑な綾を素早く映画にできるのだ。

 ホン・サンスの映画は、ある区切られたわずかな時間と場所の中で展開する恋愛のいざこざや不貞が描かれるのが特徴だ。講演のために地方都市に訪れた映画監督と地元で絵を描く女との出会いと2通りの別れを描いた『正しい日 間違えた日』、不倫で叩かれた女優がドイツ・ハンブルクと韓国・カンヌンで自分を見つめ直す姿が描かれる『夜の浜辺でひとり』、映画祭でカンヌに滞在している映画会社の女が映画監督との関係を疑われ女社長に怨みを買ってクビになり、偶然に出会ったフランス人女性とカンヌを彷徨い、映画祭が終わるまでの限られた時間の男女の顚末を描く『クレアのカメラ』、妻に女性社員との浮気を疑われている出版社社長のもとに面接に来た女が恋愛の騒動に巻き込まれる一日を描いた『それから』と、どの傑作にもいつものスタイルは健在だ。

 自分自身に降りかかった恋愛のもつれを、あえて自らを連想させるように虚構と真実を混在させて描くホン・サンス。その語り口はまるで私小説のようである。4作品すべての主人公を演じる女優キム・ミニとは実際に恋愛関係にあるから余計、スキャンダラスな想像がリアルに感じられるのだ。これまでの主人公は映画監督、脚本家、映画学校の講師、文学者など、どれもくすぶっているどうしようもない芸術家だったが、それは監督自身の分身であり本音を語るためか。

 人生の中で停滞したわずかな時間を切り取り、どうにもならない恋愛の機微を描きながらも人間がいかに滑稽で曖昧な存在であるかを証明し続ける特異な映画監督に私は魅了されるのである。

■映画公開情報
6月9日(土)~ 『それから』
6月16日(土)~ 『夜の浜辺でひとり』
6月30日(土)~ 『正しい日 間違えた日』
7月14日(土)~ 『クレアのカメラ』
ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次ロードショー。

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

■関連情報
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada