【4月11日 marie claire style】 夜明けの朝の清々しさがある。風の巻き起こる強さがある。柔らかい孤独の影もある。

 NHK大河ドラマ「龍馬伝」の題字は、まるでゴシック様式のカテドラルのように、他人を寄せつけない美しさがあり、それでいて生命の流れを表現し、呼吸をしていた。美貌の書家として知られるその華奢な佇まいのどこから、そうした力が湧き出ているの
だろうか。

 海外では「カリグラフィー」といわれ、絵画の一歩手前の領域とされている東洋の書は、掠れ、はみ出し、筆の穂先からこぼれ落ちた黒い斑点、そうした形態からして、コンテンポラリー・アートともいえる。

「同じ文字は、二度と書けない」そうだ。

「2017年9月には、天皇皇后両陛下に、10月には秋篠宮同妃両殿下に、展覧会へお越しいただいた」という。現存のアーティストの展覧会には滅多に足を運ばれない皇族の顔ぶれに、本人も相当感激したようだ。

 対談の場は有楽町の外国人記者クラブ。気難しいのではないかと、多少構えていったのだが、話してみるとその才気煥発なエスプリの効いた会話に、つい引き込まれてしまう。

 書に向かう前に、どのような準備をされるのだろう、ときいてみる。

「格闘家は試合前に肉を食べて、熱量を高めますよね。私は肉や酒は節制します。そうすることで他者への関心が減り、意識が自分の内側に向き穏やかになり、集中力を高めることができるのです」

 それからまた、「以前、脳波を調べてもらったことがあるのですが、何もしてない状況でも、集中力を高めることができるのかしら」といって笑う。

 集中時とリラックス時の脳波について図解で説明してくれたが、こちらはその気迫に圧倒されて、理解を怠ってしまう。つまりは「バンジー・ジャンプをした後に温泉に入
る状態」を自然に生み出せる、ということのようだ。

「筆はいつもこれを使っています」と持参した筆をみせてくれたが、その穂先は普通のものよりだいぶ長く、細い文字も、太い文字も、すべてその一本に託すという。

「吉野の職人が作っていて、すべての工程を同じ職人が手掛けているものです。山羊の喉元の柔らかい毛です」

 水分を含むとその穂先は鋭い刃のように尖ってきて、彼女好みになった。集中力が高まれば高まるほど、深く、重い文字が書けるので、修行はまだこれからだという。

 この記事では、語り尽くせない書家だった。

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(c)marie claire style/photo: wataru yoneda/text: Kasumiko Murakami