【9月14日 marie claire style】異文化は融合すればするほど、微妙な陰影を深めていくものだ。べトナムで生まれ、13歳の時に戦争から逃れて両親とパリに移住したトラン・アン・ユン監督の新作は、揺れる草花のように繊細な美意識で貫かれている。

「崩れ去る愛、儚い時の流れ、そうした愛のテーマを探していた時に、今回の『エタニティ 永遠の花たちへ』の原作アリス・フェルネの『L’Elegance des Veuves (直訳:未亡人たちの優雅さ)』に出会った。すぐに映画化したいと思ったが、実現するまで、長い道程でしたよ。ヒロインはオドレイ・トトゥと決めていて、彼女を2年間も待たせてしまった」

 フランス映画祭のために来日した監督は、滞在先のホテルの一室で、夢を語る青年のような情熱を垣間みせながら、映画化のための資金集めに東奔西走した苦労話から始めた。

 テクノロジー全盛の今の時代に、永遠という途方もなく曖昧なタイトルをつけるのは、相当勇気のいることだ。その映画に投資をしようというプロデューサーを探すのは、至難の業だったにちがいない。

 新作のストーリーは、19世紀末フランスのブルジョア階級に属する主人公ヴァランティーヌの、家族代々の時の流れを通して、一度婚約破棄した男との結婚や死別、そして出産といったドラマを淡々と描いたものだ。

 NHKの「ファミリーヒストリー」のフランス版ともいえる、その一世紀にわたる家族のアルバムに、つい見入ってしまった。

 映像においても『青いパパイヤの香り』で世間を驚かせた当時の鮮烈な感性は今も健在だ。台詞は少ないが、装飾された鏡、淡い色の薔薇の花、木立の向こうの陽光といったものから心象風景が表現されている。 2010年に彼が手掛けた『ノルウェイの森』でも、それは遺憾なく発揮されていたものだ。

 インタビューの途中、「あなたは家族というテーマが本当にお好きですね。どうして?」と聞いてみた。

「家族で最初にフランスにやってきた時は、マルセイユに到着したのですが、だれひとり知らないこの国で、これから一体どうなるのか不安でした。家族の絆だけが、唯一信じられるものだった。僕は常にそこに回帰していく。だからかもしれない」

 妻のトラン・ヌー・イエン・ケーは、夫の映画にしか出演しない女優として知られている。どうやらいい家庭を築いているようだ。

 どれほど世界の映画祭でその才能を讃えられても、移民としての原点を忘れない真摯な映画人、トラン・アン・ユンは、これからも独自の視点で、いい作品をみせてくれそうだ。

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(c)marie claire style/text:Kasumiko Murakami