【4月27日 marie claire style】2011年から長い沈黙が続いていた「ファイスト」より、旅先から送られてくるポストカードのように新しい曲が私たちの元に届いた。『Pleasure(=喜び)』と名付けられたアルバムのジャケット写真には、ガーリーさと情熱を感じさせるパッションピンクの花々で埋め尽くされた塀に飛び込む彼女の姿があった。無駄なものをそぎ落としたシンプルなギターと、まるでマリアのように優しさと強さを持ったレスリー・ファイスト(Leslie Feist)の声を聴いた時に、これこそ私たちが長い間待ち望んだものだったと確信した。

 カナダ西部のカルガリーで育ったファイストはガレージやパンクに夢中な学生時代をおくった。自らギターとマイクを手にパンクバンドを結成、地元のコンテストで優勝し、憧れの「ラモーンズ(The Ramones)」の前座を務めた。卒業とともに活動拠点をトロントに移した彼女はピーチズ(Peaches)に出会い、ルームメイトになる。生活をともにしていくにつれ、ピーチズが活動するライオットガールのシーンに彼女は興味を惹かれていく。音楽性は違うものの、ふたりはよきライバルとなり、親友になった。音楽活動は少しずつ熱を帯びていく。1999年にソロアルバムをリリースしてから、地道に活動を続け、2004年にリリースした『Let It Die』がカナダ国内でヒットした。そのヒットのおかげで彼女の世界は、溢れたミルクの染みが予測不可能に広がっていくように、人気も関心もいろんな方向へと広がっていった。

 彼女のブレイク作となったアルバムを支えたのは同じくミュージシャンのクリス・マーフィー(SLOAN)だったが、彼女は創作の方向性をより研ぎ澄ますために、友人のピアニスト、チリー・ゴンザレス(Chilly Gonzales)のいるパリに発つことを決心し、その甘い関係は終わりを迎えた。そして、パリ行きは彼女にとって素晴らしい結果をもたらしてくれた。07年に発表したアルバム『The Reminder』に収録された「1234」がアップル(Apple)社のCMに起用され、グラミー賞4部門ノミネートなど、一気に飛躍していく。長い活動の中で、彼女のセンスは商業的なものに染まらず、純白のリネンのベッドシーツのように、パリッとした気持ちよさで私たちを覆ってくれる。下手な小細工が施されていない、生身に近いハスキーで少し男性的な歌声、それはとても親密で、時にその過剰な親密さに私たちの心はソワソワする。

 ファイストは新しい扉を開け、まだ見ぬ世界へと誘ってくれる。二の足を踏まずに、飛び込もう。私たちの音楽の旅はまだまだ続いていく。

■プロフィール
多屋澄礼(Sumire Taya
1985年、東京都出身、京都在住。インディ・ポップという音楽ジャンルを軸にイラストレーター、ライター、DJとして雑誌や本などで執筆を手がける。女性DJグループ、Twee Grrrls Club主宰。レーベル&ショップ、Violet And Claireのオーナーとして、女性作家や海外の雑貨などをセレクト。2012年、Twee Grrrls Clubの著書として『インディ・ポップ・レッスン』を刊行。その後、アレクサ・チャン著『IT』の日本語版の翻訳を手がけ、15年には女性ミュージシャンのライフストーリーを綴った『フィメール・コンプレックス』、京都のガイドブックとして『New Kyoto京都おしゃれローカルガイド』を刊行。

■関連情報
girl about town アーカイブはこちら
【無料ダウンロード】marie claire style PDFマガジンをチェック!
(c)marie claire style / selection, text, illustration: Sumire Taya