【6月22日 MODE PRESS】現在、森美術館で開催中の『六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声』でフィーチャーされている現代アーティストの片山真理(Mari Katayma)は、ファッションが大好きだという29歳。黒髪に切れ長のメイクを合わせた彼女のスタイルは、伝説のモデル・山口小夜子(Sayoko Yamaguchi)を彷彿とさせる。両足の義足には彼女の愛する数々のモチーフが描かれており、太ももには色とりどりの蝶々が羽ばたいていた。高校生のときからイラストを描いているという片山は「義足の絵はこうやって履いているから生きてくるもの。これを使ったセルフポートレートももうすぐ撮影予定」と語る。

 彼女の代表作は自宅で撮られたポートレートシリーズ。脛骨欠損という先天的な病気で9歳のときに両肢を切断した片山は、自身の身体を素材とした作品を作り続けている。2012年に発表した『ハイヒールプロジェクト』では義足で16cmのハイヒールを履きこなし、各方面から喝采を浴びた。現代アートに縁のない女性たちからも「かっこいい」と注目される新たなヒロイン、片山真理とはいったい何者なのだろうか?

「you're mine #001」セルフポートレート 2014年(c)Mari Katayama

■運命を変えた出会い

 群馬の商業高校に通っていた片山は「もともと堅実なタイプ」で、会計士の資格も持つ。「そのまま就職して地元でゆっくり暮らしていこうと思っていた」そんな普通の高校生のもとに、あるとき意外なオファーが舞い込んでくる。当時バンタンデザイン研究所の学生だったスタイリストの島田辰哉(Tatsuya Shimada)から、モデルになってほしいと頼まれたのだ。ウェブサイトに写真やイラストを載せていた片山を偶然見つけた島田は「学校の卒業ショーのために、個性を持つモデルを探していた。真理ちゃんは障がいがあるけれどファッション好きのリアルな女の子で、足に絵を描いていたりするのが超かわいいと思った」と語る。

島田辰哉(写真左)からの依頼で初めて歩いたファッションショーのランウェイ。

 すぐに群馬まで会いに来たという島田について「彼は私の人生を変えた人。10代のときの衝撃的な出会いだった」と片山は当時を振り返る。二人はディスカッションを重ね、ケルトをテーマにしたルックを作り上げた。片山は義足にアザミの絵を描きあげ、ショーの前にはウォーキングのレッスンに参加する。「先生が私を特別視せずにほかのモデルと同じように扱ってくれた。それに同年代の女の子たちを見て『自分は誰かの真似をして生きていくことしか考えてなかったな』と初めて気づいた」。それまで背が高いことを気にしていた片山だが、ショーまでに義足を調整して身長を5cm伸ばしたという。今、片山の身長は180cmある。「島田さんが『やっていいんだよ』って、次の世界を見せてくれたから」

「最近は黒しか着ない」という片山(2016年6月14日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi 撮影協力:Vase

■「自分らしさ」は自分で作る

 ファッションショー出演後から、片山の意識は変わった。自分を「演じる」ことを思いついたのだ。もともと人がどんなふうに歩いているかを観察して真似するのが癖。「自分が普通に歩けるようになったのも、おじさんの歩き方や若い子の歩き方など全部研究していたから」。そんなふうに何かのキャラクターを演じることは自分にぴったりだったと片山は語る。「自分らしさって、生まれ持った個性もあるかもしれないけれど、ほとんどが後天的に選択されてきたものだと思う。好きなものとか、なりたいものとか。同じ顔で生まれても、自分の選択によってぜんぜん変わってくる」。そうして徐々に出来上がっていったのが今の「片山真理」スタイルだという。

(左)「shell」セルフポートレート 2016年(右)「beast」セルフポートレート 2016年(c)Mari Katayama

■「それはアートだ」と言ってくれた人物

 片山のアーティストとしての才能を見出したのはキュレーター、故・東谷隆司(Takashi Azumaya)だった。卒業後の進路に迷っていた片山は、あるとき美術コンペ「群馬青年ビエンナーレ」に応募する。そこで審査員の1人を務めていた東谷は、義足を使った片山の作品を高く評価。創作を続けるように励まされた片山はその後、東京藝術大学大学院に進学し、アーティスト活動を始める。「自分ではアートと思っていなかったものを東谷さんがアートにしてくれて、私は幸運だった。東谷さんは『君はアーティストなんだよ』って、彼が亡くなるまで10年間言い続けてくれた。彼の言葉や彼の認めてくれた作品が、今でも私の支え」

 東谷の存在を失ったあとは喪失感に苛まれたという。だがそんな片山のもとに、彼女を支える存在が新たに現れる。東京藝術大学大学院の恩師である、美術作家・小谷元彦(Motohiko Odani)だ。「小谷さんには卒業後にも彼の作品に出演させてもらったり、色々相談にのってもらったり。つねに応援し見守ってくれる存在。私の人生を変えたのは島田さん、東谷さん、小谷さんとの出会いだった」

すらりとした長身は目を引く(2016年6月14日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■自分を好きにならなくていい

 片山は今でも、自分に自信が持てないという。「一人になると『大丈夫かな?』って思うときもあるけれど、自分の信頼している人が『君の作品は素晴らしいんだよ』って言ってくれたら、それを信じようって思える」。自分自身についても、無理に好きになる必要は絶対にないと片山は断言する。「たとえ自分が自分のことを嫌いでも、自分の好きな人が好いてくれればそれでいい。その人に『愛してるよ』って言われたら、その人が愛せる自分のことも愛せるかもしれない。ちょっと遠回りかもしれないけどそれが一番まっとうな自分の愛し方なのかも」

 アーティスト・片山真理の強さはそこにあるのかもしれない。雑踏の中を義足でさっそうと歩く彼女の姿は、気高く美しく、圧倒的なオーラを放っていた。まさに彼女の作品の世界観と同じように。(c)MODE PRESS

■関連情報
義足のアーティスト・片山真理の「王国の作りかた」【後編】
片山真理 公式サイト:http://shell-kashime.com/