【11月13日 marie claire style】『アデル、ブルーは熱い色(Blue Is the Warmest Colour)』で第66回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを獲得し、フランスを代表する演技派としてその名を世界に広めた女優のレア・セドゥ(Lea Seydoux)。フランスの古典的物語を最新の映像技術を駆使して実写化した、現在公開中の映画『美女と野獣(La Belle et la Bete)』では、主人公のベルを熱演。大人の心を打つ、ファンタジー・ロマンスの物語を紡いだ。「プラダ(PRADA)」の香水のキャンペーンモデルを務めるなど、ファッション・アイコンとしても注目されるレアの素顔に迫る。

 鮮やかな「プラダ」のブラウスに身を包み、ふわりと目前に現れたレア・セドゥは、その柔らかな頬のふくらみや、少し眠そうな、どこか遠くを夢見ているような眼差しからして、男性だけでなく、同性でさえも心を和ませるものを持っている。インタビューの場所は「ホテルオークラ」の一室だったが、彼女の周辺は、たちまち繊細な雰囲気に包まれた。外見はグラマラスな肢体をしているのに、それでいてピュアな少女が成長したような一面を残していて、その微妙な食い違いが、新鮮な印象を与える。

 今回、クリストフ・ガンズ(Christophe Gans)監督の新作『美女と野獣』のプロモーションで来日した彼女に接したスタッフたちが、異口同音にレアのファンになってしまったときいたが、それも分かるような気がする。上流家庭出身の育ちのよさというだけでなく、レアには持って生まれた資質があるようだ。

 映画『美女と野獣』というと、ジャン・コクトーの代表作といえる同名の作品が思い出されるが、原作は18世紀半ばにフランスのヴィルヌーヴ夫人の書いたファンタジー小説で、これまでアニメーションやミュージカル、実写映画などで、幾度となく作品化されている。

 一方レアは、ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』やクエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)監督の『イングロリアス・バスターズ』などの話題作に出演。昨年公開の『アデル、ブルーは熱い色』では、主人公をレズビアンに目覚めさせる画家の役を熱演して、共演のアデル・エグザルコプロス(Adele Exarchopoulos)と共に、カンヌ映画祭パルム・ドールに輝くなど、至極リアリズムな映画の世界で演じることが多かった。そんな彼女が、廃虚の城の中の幻想的な撮影現場で、野獣の心を蕩けさせる美女ベルを演じるのに、戸惑いはなかったのだろうか。

「みんなに夢を与えるストーリーなので、日本でも多くの方々に観てもらいたい、と思っています。森や晩餐の場面とか、どれも素晴らしい装置でした。衣装もそうです。

 でも相手役のヴァンサン・カッセル(Vincent Cassel)は、撮影中は野獣のお面を付けずに、籠のようなものを被っていたので、最初はそれをみると可笑しくてつい吹き出していました」

 舞台は1810年、6人の子どもを持つ豪商の末娘ベルは、誰よりも父親思いの心優しい娘だった。ベルは森の中で野獣と出会い、恐ろしい外貌だとしても、その裏に隠された心に触れることで、本物の愛を見出すというストーリーだ。家族がテーマで、それはいかにもカトリック的だが、彼女自身は家族について、どう考えているのだろうか。

「愛のためには、なによりも家庭を大事にしたいし、そうすることで愛する人との繋がりが一段と深まっていく、と私は信じています。私もそういう家庭を早く持ちたいと思っています」

 甘美な声で、模範的な答えが返ってきた。

 もともと彼女はフランスの上流家庭で育っていて、祖父はフランス最大手の映画会社「パテ」の会長、大叔父も「ゴーモン」の会長という家柄。まさに映画界の名門の令嬢なのだ。そのせいで彼女が女優としてデビューした当初は、ブルジョア娘が気紛れで映画界に入ってきたと冷ややかにみられていた。ところがデビュー間もなくの『美しいひと』で、セザール賞の最優秀新人女優賞にノミネート。その後、ウディ・アレン(Woody Allen)監督の『ミッドナイト・イン・パリ』への出演や、カンヌ映画祭での栄誉など、着々とキャリアを重ねていくのをみて、今はもう誰も彼女を白眼視しないだろう。

 その日のインタビューの最後に、「次の『007』でボンドガールになるという噂は、本当なの?」ときいてみた。

「え? 私が? 何もきいてない」

 その時はそれで終わったが、その後レアが次のボンドガールに決定した。選考の最後までレアと、イギリスのトップモデルで女優を目指すカーラ・デルヴィーニュが争ったと分かると、まるでイギリスに勝利したように、フランスのマスコミは久々のフレンチ・ボンド・ガール誕生に沸いていた。

 レアはまた大きな一歩を踏み出したようだ。

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(c)marie claire style/photo: Yoshihito Sasaguchi〈SIGNO〉,hair: Dai Michishita,make-up: UDA〈S-14〉,clothes: PRADA,text: Kasumiko Murakami