【7月26日 marie claire style】カンヌ映画祭、ベネチア映画祭、そしてベルリン映画祭。これが、いわゆる世界三大映画祭。映画人なら誰でも憧れる映画祭。当然のことながら、簡単には行けない夢の祭典だ。だが、僕が常連としてよく行く映画祭がある。それはジタク映画祭。え?ジタク?どこの国?えっと・・・それはドミニカ共和国の首都ジタクで開催される映画祭で・・・というのは噓(失礼!)。ジタク=自宅なのだ。ジタク映画祭。なんのことはない。自宅でブルーレイやDVDを観るだけの超個人的な映画祭なのだ。でもジタク映画祭を侮るなかれ!そこは見逃したあの傑作や、もう一度観たいあの名作が夜な夜な上映される、世界三大映画祭にも匹敵する映画祭になるのだ(妄想次第では)。

 ということで、第一回は『イリュージョニスト(L'Illusionniste)』を紹介しようと思う。いきなりアニメか、と思われる方もいるだろう。でも食わず嫌いせず観て頂きたい。本作はアカデミー賞やゴールデングローブ賞にもノミネートされ、あのスタジオジブリが日本に紹介したという近年映画史に残る傑作なのだ。

 

 フランソワ・トリュフォーやオーソン・ウェルズも絶賛していたフランスの喜劇王ジャック・タチ監督が娘のために残した脚本を『ベルヴィル・ランデブー』(これまた傑作)のシルヴァン・ショメ(Sylvain Chomet)監督が映画化。1950年代のパリ。初老の手品師タチシェフは、場末のバーで時代遅れの手品を披露しながら旅芸人として細々と暮らしていた。ある日、スコットランドの離島にたどり着いた彼は、そこで貧しい少女アリスと出会う。タチシェフの手品を魔法だと信じこみ彼を慕うアリス。一方タチシェフは、生き別れた娘の面影をアリスに重ねていて・・・。

 

 なによりも、アニメーションとしての映像表現に感嘆する。宮崎駿監督をはじめとして、アニメ映像に目が肥えた日本人でもこれは必ず驚くはず。ただ美しいだけではない。どこか乾いていて、でも懐かしくて切なくて。あの映像世界はなんだか、しばらく体の中にしみ込んで抜けない。そしてこの作品は、ほぼセリフ無し。それでも、タチシェフとアリスの気持ちが痛いほどビビッドに伝わってくる。タチシェフを魔法使いだと信じ込んでいるアリスに、彼は美しい靴や服を次々と用意する。当然生活は破たんしていく。それでも彼は与え続け、彼女は魔法を信じ続ける。タチシェフの無償の愛。見ていて痛々しくなるまでの自己犠牲。それは生き別れた娘への彼なりの償いなのかもしれない。そしてその愛を求め続けるアリスの無垢であるがゆえの残酷さが、胸に突き刺さる。アニメにここまで心揺り動かされるとは・・・脱帽。アニメの可能性を無限に感じる一本だった。

 

 ちなみに、この作品で少女アリスのアニメ作画を担当していたのはイギリス在住の天才アニメーター・鈴木亜矢さん。すごい日本人がいるものだと感嘆した。ちなみにこの鈴木さん、僕が参画している細田守監督最新作『おおかみこどもの雨と雪』(7月21日公開)にも参加して頂いており、その才能をいかんなく発揮されている。ということで、第一回「ジタク映画祭」はここまで。是非この週末にでも、自宅で「ジタク映画祭」してみることをお勧めします。きっと、自宅がカンヌにもベネチアにもなること間違いなしです(妄想次第では)。

 

■プロフィール
川村元気/Genki Kawamura 1979年生まれ。 2005年、26歳で映画『電車男』を企画・プロデュースし、興行収入37億円の大ヒットを記録。2010年には『悪人』『告白』を企画し、両作は大ヒットともに国内外の映画祭で多数受賞。同年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia 2010」にプロデューサーとして選出され、2011年には「第30回藤本賞」を史上最年少で受賞。その後の企画作品『モテキ』『宇宙兄弟』もヒッ トを記録。7月21日公開の細田守監督の最新作『おおかみこどもの雨と雪』にも参画中。 (c)marie claire style

 

【関連情報】
『イリュージョニスト』公式サイト<外部サイト>