【10月14日 AFP】インドで野菜の行商人として働くダダラオ・ビルホレさん(48)は、道路に開いた穴をふさぎ終えると、シャベルを脇に置いて空を見上げ、息子プラカシュさんのことを思った──。プラカシュさんは、道路に開いた穴が原因で交通事故に遭い、そのまま帰らぬ人となった。同国では、道路に開いた穴が原因で命を落とす人が後を絶たず、毎年数千人が犠牲となっている。

 前途有望な学生だったプラカシュさんは、16歳でこの世を去った。事故は2015年7月、ボリウッド映画の中心地でもある人口2000万人の商業都市ムンバイ(Mumbai)で起きた。

 息子を失い悲嘆にくれたビルホレさんだが、その悲しみを乗り越える手段として、ムンバイ市内の道路に開いた穴をふさぐ活動を始めた。ムンバイだけでなく、インド国内の道路事情は整備が行き届いていないことで悪名高い。

 過去3年にわたり、ビルホレさんは工事現場から集めた砂と砂利を使って市内の穴をふさいできた。その数は約600に上る。彼が行動するのは、亡き息子への思いと、人の命を救えるという希望がそこにあるからだという。

「プラカシュの突然の死は、私たちの人生に大きな喪失感を残した。私がこの活動を続けているのは、息子のことを忘れず、称えるためだ」

 質素な共同住宅で、妻と娘、そして近親者と暮らすビルホレさんは、「愛する人を失うのは、私たちだけで十分」と静かに話した。

 事故当時プラカシュさんは、いとこが運転するオートバイの後部座席に乗っていたが、オートバイのタイヤが深い穴にはまり、その衝撃で2人とも空中に投げ出された。ヘルメットを着用していたいとこは軽傷で済んだが、ヘルメットのなかったプラカシュさんは、脳に致命的な損傷を負った。

 事故はモンスーンの時期に起きた。クレーターのような穴は、こうした大雨によっても生じるのだという。

 ムンバイ市内には、道路の穴がそこら中に開いている。その数は、最も穴の多い都市としてギネスブック(Guinness Book of World Records)への掲載が模索されているほどだ。

 ある住民が市内の道路に開いている穴の箇所を数えたところ、その数は2万7000に上った。しかし、市の当局者は、この数字は不正確として取り合おうとしない。