■樹木が犠牲に

 ノルウェー北部の海岸線が迷路のように入り組んだ地域は、戦艦ティルピッツとその乗組員2500人が連合軍に見つからないように退避した場所であることが、その時の話で判明した。人工衛星のない時代には、全長250メートルの巨大戦艦でさえも発見はそれほど簡単ではなかった。

 それでも連合軍の偵察機はついにティルピッツを見つけ、攻撃を開始した。しかしドイツ軍は対抗策を用意していた。戦艦とその周辺が飛行機から見えなくなるほど大量の人工霧を発生させたのだ。

 このことについてセント・ジョージ氏は、「煙霧はフィヨルド周囲の森林に流れ込み、近くのマツやカバなどにダメージを与え、特徴的で特異な『爪痕』を残した」と話す。

 ハートル氏は2017年夏、霧の被害がどの程度まで広がったかをより詳細に調べるため、当時の戦場となった地域を再訪した。

 調査の結果、ティルピッツがかつて停泊していた場所の近くでは、1945年に樹木の60%以上が実質的に全く成長しておらず、周辺の木々全てにある程度の影響が及んでいたことが明らかになった。また、1950年代に木々の間から若木が生え始めていたことから、ティルピッツからの化学物質の霧によって樹木の枯死が引き起こされていたことも示唆された。

 停泊地から4キロ離れた範囲までは樹木の半数以上が深刻な影響を受けており、完全に回復するまで平均で8年を要していた。

 木々に害を及ぼした人工霧は、クロロ硫酸(塩化スルホン酸)で発生させたものである可能性が高いという。クロロ硫酸を水と混ぜると白く濃い霧が発生する。

 1944年10月、ドイツ海軍司令部はティルピッツを砲台として運用するためトロムソに移動させた。しかし、その翌月、英空軍の爆撃機「ランカスター(Lancaster)」32機による攻撃により、同艦は沈没着底した。(c)AFP/Marlowe HOOD