■アリを「ゾンビ」に変える細菌も

 ペニック氏は「今回の研究はどのアリの系統が人の病気に対して有効な抗生物質を生成する可能性が最も高いかを特定する最初の一歩となるものだが、抗生物質として機能する化学物質を同定し、それらを合成する方法を開発するためには、さらに研究を重ねる必要がある」ことを指摘している。

 またペニック氏によると、昆虫の大規模で緊密な社会集団は病気の温床として理想的な環境であるため、新たな抗生物質の有望な供給源となると長い間考えられてきたが、これまでのところ実際に調査が行われた事例はほとんどないという。

 アリは自身が生成する化学物質の防御を多数の侵入菌に対して用いるが、この中には感染したアリを「ゾンビ」に変える細菌数種と真菌1種も含まれる。これらの菌は中枢神経系に作用する化学物質を放出し、ゾンビ化したアリの体を乗っ取り、最終的には宿主のアリを殺してしまう。

 ここで重要な疑問が生じる。人が開発した薬剤の多くはほんの数十年で効力を失うが、アリを攻撃する病原菌には、おそらく何百万年も前からアリが使用し続けてきたと考えられる抗菌性物質への耐性が生じていないのはなぜかという点だ。

 さらに、今回の研究の重要な成果の一つは、抗菌性物質を作らないアリ8種に関するものだ。この8種は、少なくとも今回試験した細菌に対して有効性を示す物質を何も生成しない。抗菌性物質を作らないアリ種が存在するなら、それはこれらのアリが病気から自らの身を守るための別の方法を見つけた可能性があることを意味する。

 抗生物質に過剰にさらされることが原因の一つとなっている薬剤耐性の拡大について、国連(UN)は「健康に関する国際的な緊急事態」と表現し、今日では容易に治癒する軽い病気で人々が命を落とすような未来を招く恐れがあるとしている。(c)AFP/Mariëtte Le Roux