■「不安に駆られず」

 一つは、溶剤、塗料剥離剤、脱脂剤などとして利用されている「極短寿命物質(VSLS)」と総称される人工化学物質のグループで、これが下部成層圏のオゾンを破壊する。

「これがVSLSの問題なら、対応は比較的容易なはずだ」とボール氏は話す。「モントリオール議定書を改正して、VSLSを使用禁止にすることが可能だろう」

 オゾン層破壊を再び進行させている可能性のあるもう一つの原因は、地球温暖化だ。

 下部成層圏の大気循環パターンの変化が最終的にオゾン濃度に影響を及ぼし、この影響はオゾンが生成される熱帯上空の成層圏から現れ始めることが、気候変動モデルで実際に示唆されている。

 だがこれまで、こうした変化が起こるのは数十年先と考えられており、熱帯と極域の間の中緯度帯にまで達していることは予想外だった。

 ボール氏は「気候変動がその原因なら、問題ははるかに深刻だ」と指摘し、成層圏が気候変動に対してすでに顕著な反応を示しているかどうかに関しては科学者らの間で意見が分かれていると付け加えた。

「憂慮すべき事態だが、不安に駆られないようにするべきだ」とボール氏は続けた。「今回の研究は『モデルに現れていない何かがここで起きている』ことを示すための大きな警鐘を、科学界に向けて鳴らしている」 (c)AFP/Marlowe HOOD