■儀式に使われるマットが細菌感染の温床に

 儀式には同じ村の住民が全員招待され、人々は行進に参加したり、音楽隊の演奏やごちそうを楽しんだりすることができる。ただし遺体の布を巻き直すのは家族だけで行われる。

 改葬は一度きりとは限らない。5年、7年、9年に一度行われることもある。宗教儀式というより慣習に近いファマディハナは、人によっては衝撃的な光景として映るかもしれないが、参加者にとっては、音楽と歌とダンス、酒が振る舞われる熱狂的な祝典だ。

 アンボヒジャフィの墓地での儀式が終わると、ベテランの参加者たちが遺体が置かれていたマットを取り上げた。次の儀式まで取っておくのだ。マダガスカルには、このマットをきちんと保管しておけば、幸運がもたらされるという言い伝えがある。

 だが一部の医療関係者は、こうしたマットは細菌感染を引き起こす温床となる恐れがあると警鐘を鳴らす。

 今年8月以降、マダガスカルではペストによる感染者が1100人を超え、124人が死亡している。そのため、改葬の儀式は公衆衛生当局者らにとって懸念材料となっている。

 保健省の疫学問題専門家らは、ペストの流行時期がファマディハナの儀式が行われる7~10月に重なっていることを長年の観察で記録していた。保健省局長は、「肺ペストで亡くなった人を埋葬して遺体をファマディハナで取り出すと、その菌が遺体を扱った人に感染する恐れがある」とそのリスクを指摘する。

 こうしたリスクを減らすために、ペストで死去した人の遺体は、改葬可能な墓ではなく無名の集合墓地に埋葬するよう定められている。だが地元メディアの報道によると、遺体が密かに取り出されたケースがこれまでに数例あったという。

 当局がペスト感染の深刻な危険性について周知しているにもかかわらず、マダガスカルでは改葬儀式に疑問を持つ人々はほとんどいない。

 中にはペストの危険性が誇張されている、とまで言う地元住民もいる。ある女性は、「政府は(2018年に実施される)次の大統領選のお金がないものだから、金貸しから現金を引き出すために話をでっち上げている」と主張した。「私は生まれて15回、ファマディハナに参加してきたけど、ペストなんて一度もかかったことがない」 (c)AFP/Tsiresena MANJAKAHERY