【11月29日 AFP】長期間の宇宙飛行を経験した宇宙飛行士は、視界不良や視覚障害に見舞われる可能性があるとの研究結果が28日、発表された。微小重力状態で髄液に変化が生じることが原因だという。

 北米放射線学会(RSNA)の年次大会で発表された研究によると、国際宇宙ステーション(ISS)で数か月過ごした宇宙飛行士の3分の2近くが後に目の不調を訴えたという。

 今回の研究を率いた米フロリダ(Florida)州のマイアミ大学ミラー医学部(University Of Miami Miller School Of Medicine)のノーム・アルペリン(Noam Alperin)教授(放射線医学・生体医療工学)によると、「一部の宇宙飛行士は、地球に帰還しても完全には元に戻らないほど重度の構造的な変化を起こしていた」という。

 症状としては、眼球後部の扁平(へんぺい)化や視神経の炎症などが起き、結果的に遠視になる恐れがある。

 研究者らは当初、これらの症状が、微小重力下で発生する体内の血液分布の変化に起因すると考えた。微小重力環境では、頭部にとどまる体液の量が、重力が下向きに作用する地球上で通常考えられる量よりも増えるからだ。

 アルペリン教授と共同研究者らは、軌道を周回するISSで数か月を過ごした宇宙飛行士7人について、搭乗前と搭乗後の脳をスキャンしたデータを調べ、2011年に引退した米国のスペースシャトルに搭乗して短期間の宇宙飛行を行い、地球に帰還した飛行士9人のデータと比較。その結果、長期の宇宙飛行を経験した飛行士は、脳脊髄液の量が有意に多いことが判明した。

 脊髄液は通常、脳と脊髄への衝撃を和らげる一方で、栄養物を循環させ、老廃物を除去する働きをする。地球上では、脳脊髄液系は、座る、立つ、横たわるなどの姿勢の変化に適応するようにできているが、アルペリン教授の説明によると、宇宙空間では、姿勢に関連した圧力変化が起きないため、脳脊髄液系に混乱が生じるという。

 また、長期の宇宙飛行を経験した飛行士は「飛行後に、眼球の扁平化や視神経の突起などの増大が有意に認められた」と論文は指摘している。

 アルペリン教授によると、今回の研究は、脳脊髄液が視覚障害を伴う症候群で直接的な役割を果たしている初の定量的な証拠を提示しているという。

 米航空宇宙局(NASA)は現在、2030年代までに実施を目指す、数か月から数年にわたる有人火星探査計画に取り組んでおり、こうした目の不調に対処する方法について研究を進めている。(c)AFP