■薬剤開発はまだ先

 オートファジーの発生過程では、まず「オートファゴソーム」と呼ばれる脂質膜組織が、不要な廃棄物を包み込み、他の細胞質から隔離する。

 次に、廃棄物を分解するために、消化酵素で満たされた別の特殊化した細胞構成要素「リソソーム・液胞」が、オートファゴソームと合体する。

 英ウォリック大学(University of Warwick)のオートファジーの専門家、イオアニス・ネジス(Ioannis Nezis)氏は、AFPの取材に「オートファジーは、人間が老化すると機能が低下する。これにより、病気の原因となる機能不全のタンパク質が蓄積する」と説明した。

「老化が進む間にオートファジー機能が低下する仕組みの解明と、オートファジーを活性化してヒト細胞をより長く健康に保ち、より長寿で健康な人生を送れるようにするための新手法の開発に向けた研究が現在、進行中だ」

 オートファジーに基づく薬剤の開発はまだはるか先の話だと、専門家らは強調した。

 オートファジー専門家によると、研究は主に次の2方向で進められているという。

 一つ目は、糖尿病、動脈血栓、ある種のがん、神経変性疾患などの発症や老化のペースを遅らせるためのオートファジー活性化剤だ。

 二つ目は、がん細胞の化学療法に対する耐性を低下させるためのオートファジー抑制剤の使用だ。

 ネジス氏によると、大隅氏の革新的な発見以来、オートファジーに関する理解は飛躍的に進んでおり、このテーマに関する学術論文は1990年までに十数件しか発表されていなかったのが、それ以降の論文は3万件ほどに達しているという。

 だが、まだ分かっていないことも数多くある。不明な点は主に、望ましくない副作用を起こすことなくオートファジーを促進する薬剤分子をいつ、どのようにして使用するかについてだ。

 オートファジーによって不老不死の薬ができる可能性は低いと、ウィルキンソン氏は注意を促した。

「これは老化が進む間の健康を増進させることであり、不死性のことでは全くない」とウィルキンソン氏は述べた。

「オートファジーのプロセスが限界に達する時点が来るのは避けられない。この時点で、細胞の基本的な能力が、加齢に関連する損傷に圧倒されるのだ」(c)AFP/Mariëtte Le Roux