【7月28日 AFP】薬剤耐性のまん延と闘うための新薬開発に取り組む生物学者らが、抗生物質を予想外の場所で発見した──人の鼻だ。研究結果が27日発表された。

 研究チームの発表によると、この抗生物質として有望な化合物は、鼻の中に生息する細菌によって生成され、病気を引き起こすスーパーバグ(抗生物質が効かない細菌)を殺傷する能力を持つという。

 研究論文の共同執筆者で、独テュービンゲン大学(University of Tubingen)のアンドレアス・ペシェル(Andreas Peschel)氏は「人に関連する細菌が、実効のある抗生物質を生成することが明らかになるとは、まったくの予想外だった」と述べ、「さらに大規模なふるい分け調査計画がすでに開始されており、この発生源から発見される抗生物質がさらに多数存在すると確信している」と続けた。

 抗生物質化合物は通常、土壌中に生息する細菌から採取される。

 ペシェル氏と研究チームは、黄色ブドウ球菌が鼻腔内に常在する人は全体の3割で、7割の人には存在しないのはなぜかについて調査していた。黄色ブドウ球菌は、重症の細菌感染症の最も多い原因の一つで、実際にこれによって多くの人が命を落としている。この細菌の菌株の一種は、抗生物質に対する耐性を獲得している。

 研究チームは、これとは別のブドウ球菌属の細菌で、体の中でも特に鼻の中に多くみられる「スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(S.lugdunensis)」が、黄色ブドウ球菌と闘う抗生物質を生成することを発見した。この化合物は「ルグドゥニン(Lugdunin)」と命名された。

 研究チームの報告によると、マウスを用いた実験では、この新発見の抗生物質による皮膚感染菌の除去または改善がみられたという。有害な副作用は確認されなかった。

 ペシェル氏は、英科学誌ネイチャー(Nature)への論文掲載に先立ち開かれた記者会見で、これらの結果は「極めて予想外の、心躍る発見であり、抗生物質の開発を新たに構想する上で非常に役立つ可能性があると考えている」と述べた。

 人体には1000種以上の細菌類がいるため、発見を待つばかりの抗生物質産生菌がさらに多数存在している可能性が高い。そのため、研究チームは「ヒト細菌叢(そう)を、新たな抗生物質の供給源とみなすべきた」と結論付けている。(c)AFP/Mariëtte Le Roux