■巨額の取引

 ダウンズ氏はAFPの取材に、世界の観賞魚の大半が同じ供給業者らを経由して提供されていることを考えると、米国以外の国々でも同様の検査結果が出る可能性が高いだろうと指摘した。来年には、米国に続いて欧州のペット魚を対象とした検査が実施される予定となっているという。

 違法と知りながらも、なぜ人々は毒を使ってまで魚を捕るのだろうか、何が彼らをそこまでひきつけるのだろうか──。環境保護団体の世界自然保護基金(WWF)のウェブサイトによると、サンゴ礁に生息する観賞魚の貿易取引額は10億ドル(約1040億円)以上に上ると考えられている。

 ナンヨウハギだけでも毎年30万匹が取引され、1匹170ドル(約1万8000円)で販売されているのが現状だ。

 ダウンズ氏は「私が購入したナンヨウハギの『ドリー』たちは、1匹を除く全個体から非常に高濃度の残留シアン化物が検出された」と述べた。そして「購入してから9日以内に死んでしまった」とも。

 だが、客をだます行為よりさらに深刻なのは、シアン化物による毒物漁法の実践によって、魚たちの自然界の生息環境であるサンゴ礁が壊滅的な打撃を受けることだ。サンゴ礁はすでに、気候変動、水質汚染、海洋酸性化などによる悪影響にさらされている。

 ダウンズ氏によると、白化したサンゴは、周囲に汚染ストレスが他に何もなければ、回復する可能性が高いという。だが、魚を残らず動けなくするためにシアン化物を大量に吹きかけると、そのサンゴ礁は死んでしまい、全滅する恐れがあるとも指摘している。

 サンゴ礁に生息する魚自体は、今のところ絶滅に直面しているわけではない。だが「50年以内には、サンゴ礁が大幅に減少するため、これらの魚の大半が絶滅危惧種リストに載ることになるだろう」とダウンズ氏は付け加えた。