【3月10日 AFP】食物を薄切りにしたり、細かく砕いたりするのに使う道具の製作は、現生人類の祖先が食物をそしゃくする回数を減らす必要性があったことを意味するとする、進化科学者らの研究結果が9日、発表された。その結果、言語といった、その他の口を使う技能を磨くための時間が増えたのだという。

 約250万年前、ホミニン(ヒト族、類人猿を除く現生種と絶滅種の人類を表す用語)に大きな変化が訪れたことが見て取れる──大きな歯、顎、そしゃく筋などからの転換だ。

 口は小さくなり、その一方で脳と体は大きくなった。その結果、食物から得なければならないエネルギー量がますます増加した。このパラドックスは長年、科学者らの頭を悩ませてきた。

 このパラドックスをめぐっては、我々の祖先が日々の食べ物に肉を組み込むことで、獲得する栄養を増やしたと示唆する説や、調理の発明を指摘する説などが、これまでに提唱されている。

 ホミニンが調理をしていたことを示す最古の証拠は、約100万年前にさかのぼる。しかし、そのはるか以前に、顎の小型化は起きていた。

「そこで一つの大きな疑問になるのは、調理が日常的なものとなるまでは何をしていたのかということだ」と、研究論文の共同執筆者で、米ハーバード大学(Harvard University)の進化生物学者、ダニエル・リーバーマン(Daniel Lieberman)氏は話す。

 英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された論文によると、その答えは「スライスしたり砕いたりすること」だという。

 リーバーマン氏は、論文発表に先がけて実施された電話会議で「われわれが実際に主張しているのは、食材の簡単な処理が、化石記録にみられる歯、顎、そしゃく筋の小型化への選択を可能にした可能性があるということだ」と説明。この種の転換は「より上手に発話できること、言語能力の発達、運動機能(動き)の向上などの、さまざまな種類の適応にとって有益なのかもしれない」と付け加えた。