■天安門広場で陳情「学校へ行きたい」

 中国政府は昨年末の時点で、人口13億7000万人と発表している。しかし2010年の国勢調査で、シュエさんのような無戸籍児が1300万人に上るという実態が明らかになった。この数はポルトガルの全人口を上回る。

 シュエさんは幸い、8つ違いの姉のビン(Li Bin)さんから読み書きを教わることができた。しかし同年代の子どもたちが学校に行っている間、シュエさんが両親と繰り返し足を運んでいたのは役場だった。誰かが自分たちの嘆願を聞き入れてくれるかもしれないという、かすかな希望だけを頼りにしての行動だ。彼女は北京の天安門広場(Tiananmen Square)にも赴き、「学校へ行きたい」と書いたプラカードを掲げた。

 しかし、どこへ行っても無視され、起こした裁判も同様に無駄だったとシュエさんは話す。

 一方で、一人っ子政策の適用度合には地域差があり、中には両親が罰金を納めていない子どもに対しても「戸口」の付与するとの方針を示した自治体もあった。

 AFPはシュエさんの地元の警察当局に取材を申し込んだ。応対した男性職員は、「もしシュエさんが直接ここへ訴えて来れば、『戸口』の件は何とかできる」と語った。これに対しシュエさんは、「これまで22年間、政府がこんな規定やあんな決まりがある、法が改正されるなどと言うのを目にしてきたが、実際のところ何一つ変わらなかった」と肩を落とした。

■失ったもの

 シュエさんの父親は、昨年他界した。一家は現在、風呂なしの一軒家に2部屋を間借りして暮らしている。姉のビンさんも、家族を養うために16歳で学校を中退。最初はファストフード店で働き、後に電子機器企業に就職した。まとまりかけた結婚の話もあったが、家族の扶養義務が原因で破談になった。それでも、妹に対して怒りを覚えることはないという。

「私たちは皆、シュエを心から大事に思っている。彼女はもうすでに、たくさんのものを失ってきたと思う。せめて家の中だけでも、温かみを感じてもらいたい。社会に一歩踏み出せば、温かみなど一切感じられないから」(姉のビンさん)

 シュエさんは最近、あるレストランで働き口を見つけた。ここでは身分証明証がないことに目をつぶってくれるという。

「生まれて初めて、私の実力、つまり身分ではなく能力に基づいて判断してもらえた。最高の気分」と語ったシュエさん。そして「でもこれは一時的な仕事です。将来ですか?想像もできません」と続けた。(c)AFP/Rebecca DAVIS