■先代から抹消「生まれてさえいない」ことも

 当局は、こうした偽装はすでに撲滅されたのに、一部の人々は今も注目を引くためにでっち上げの訴えをしていると主張している。アーザムガルのある判事はAFPに対し、戸籍管理の大半は電子化されており、個人情報の改ざんは不可能だと説明した。だが、偽装の性質上、マウリヤさんのケースのように何年か経ってから発覚することもある。マウリヤさんの場合、息子に土地を譲渡しようとした際に初めて、自分が死んだことになっていることが発覚した。

 マウリヤさんは父親が亡くなった1993年に1500平方メートルの土地を相続したが、数年後、姻戚関係の村に引っ越す際、土地を兄に預けた。兄に預けるのが安全だと考えた上でのことだったが、2013年になって、その土地の所有権を息子に譲ろうとしたところ、当局から自分は死亡したことになっており、所有者は兄1人になっているという説明を受けた。「ショックだった。実の兄がやったことだと知って、余計にショックだった」

 ジャグディーシュ・プラサド・グプタ(Jagdish Prasad Gupta)さん(52)は今まさに、自分の存在を証明しようと闘っている。「戸籍によれば、私は生まれてさえいない。私の父が幼くして死んだことになっていたからだ」

 グプタさんは菓子店を営んでいるが、税務署は97年、グプタさんが存在していないと判断した。ウッタルプラデシュ州内の別の場所で、グプタさんが相続したはずの土地が、親族の女性の手に渡ったときだった。グプタさんは彼女が役人に賄賂を贈ったとにらんでいる。税務署の結論は02年に覆されたが、その翌年、グプタさんはまたしても「存在しない」と宣言された。

 土地についてはどうでもいい、ただ、自分の子どもたちがこうした問題に遭遇しないよう、戸籍を正しておきたいだけだと、グプタさんはいう。「子どもや私自身が存在するのは、私の父が存在したからだということに真っすぐに行き着く。自分のためでなく子孫のために闘っている」

 身内をだましてまで土地を手に入れようとする人が絶えないのは、インドの急速な都市化や人口増が背景にある。ウッタルプラデシュ州にある社会科学研究所の社会学者、モハマド・アーシャド(Mohammad Arshad)氏は、こうした戸籍偽装事件の根には、土地に対する渇望があるからだという。「土地があればビジネスパートナーを引き付けたり、自分や子供が婚姻関係を結びやすくなったりする。ここでは土地で差がつくのだ」(c)AFP/Jalees ANDRABI