【3月5日 AFP】クモの毒には、高い効果が持続する鎮痛薬をつくるために必要な「秘密の成分」が含まれている可能性があるとの研究論文が、4日の英薬理学誌「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(British Journal of Pharmacology)」に掲載された。

 培養皿での実験では、クモの毒から採取された7種類の化合物が、人間の脳への痛覚の伝達に重要な働きをするタンパク質を阻害することが確認できた。クモの毒に含まれる分子は、神経と脳の間でやり取りされる信号を運ぶタンパク質の機能を損なわせる働きを持つ。

 毒の作用の標的を定めて制御できれば、この「オフスイッチ」は慢性痛に苦しむ数百万人の人々にとっては朗報となる。

 特に「Nav1.7」と呼ばれるタンパク質は、人体の痛覚信号の伝達に極めて重要な働きをする経路(チャンネル)と考えられている。

 今回の研究を率いた豪クイーンズランド大学(University of Queensland)のグレン・キング(Glenn King)氏は「自然発生の遺伝子変異が原因でNav1.7チャンネルを持たない人は、痛みに対して無感覚があることが、これまでの研究で分かっている。その理由から、このチャンネルを遮断することで、正常な痛覚伝達経路を持つ人の痛みを消せる可能性があると考えられる」と説明した。

 研究チームは、クモ206種の持つ毒を選別し、実験室の試験で人間のNav1.7チャンネルを遮断できた化合物7種を特定。また、この7種のうちの1つは、特に作用が強力な上に「新薬投与の必須条件とされる、高レベルの化学的、熱的、生物学的安定性を持っていることがその化学構造から示唆されている」と、論文掲載誌発行元の英ワイリー(Wiley)から発表された声明で明らかにした。

「総合すると、これらの特性により、この化合物は鎮痛薬としての可能性を秘めたものとして特に高い期待が寄せられるものとなっている」(キング氏)

 既存の鎮痛薬には、有効性に限界がある上、用量制限副作用も存在する。論文によると、成人人口の約15%が慢性痛に悩まされており、これによる経済的負担は米国だけで年間約6000億ドル(約72兆円)に達しているという。

 世界には約4万5000種のクモが生息しており、これらが持つクモ毒ペプチドは900万種類以上に及ぶ。だが薬理研究者らによる調査が行われているのは、このうちの約0.01%にとどまっているという。(c)AFP