【2月24日 AFP】通称「愛情ホルモン」として知られるオキシトシンには、また別の意外な効果があるかもしれない──。23日の査読学術誌の米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)で発表された研究論文では、酒に酔った状態の実験用ラットに投与すると、まるで酔いが覚めたかのように行動するようになると報告された。

 現時点では、ラットを対象にした実験しか行われていないが、オキシトシン注射とアルコールが投与されたラットは、酒に酔ったラットが引き起こす運動神経障害を克服できたようにみえたという。

 実験は、オーストラリア・シドニー大学(University of Sydney)とドイツ・レーゲンスブルク大学(University of Regensburg)の国際研究チームが実施した。ネット上に投稿された実験の記録動画には、容器の角までよろめき歩き、そこでじっと動かなくなる酒に酔ったラットと、しきりに遊び戯れているしらふのラット、そして同様の速度と活力で容器の中を動き回る、アルコールとオキシトシンの両方を与えられたラットの様子が捉えられていた。

 論文の主執筆者で、シドニー大のマイケル・ボーウェン(Michael Bowen)氏は「ラット版の飲酒検査では、アルコールとオキシトシンの両方を投与されたラットはやすやすと合格できた一方、アルコールだけを与えられラットには著しい運動障害がみられた」と語る。

 オキシトシンは「アルコールの酩酊(めいてい)効果を生じさせる脳内の特定部位にアルコールがアクセスするのを阻害する。この部位は、ガンマアミノ酪酸A(GABAA)受容体のデルタ・サブユニットとして知られている」と論文は説明している。

「アルコールは、適正な運動制御を可能にする脳領域の活性を抑制することで、協調運動に障害をもたらす。オキシトシンは、アルコールが及ぼすこの影響を阻止し、ラットが実際に酩酊状態にあることをその行動から判断できないほどにする。これは本当に驚くべき効果だ」とボーウェン氏は指摘した。

 オキシトシンについては、絆を強め、性的魅力を高める効果が広く知られている。また、子宮の収縮を促進させるために出産を控えた妊婦に投与される場合もある。

 研究チームは、次の段階として、オキシトシンが酩酊した人間にどのように作用するかを調査したいとしている。「第1段階は、十分量のオキシトシンが脳に到達できるようにするため、人間への薬剤送達方法を確立すること。これができれば、人間へのオキシトシン投与によって、比較的高水準のアルコール消費後に言語・認知機能への障害がどのような状態となるのかを調べることが可能になる」とボーウェン氏は話した。

 一方で研究チームは、オキシトシンの摂取について、血流からアルコールが除去される速度が速まるわけではないと注意を促している。

 これまでの研究では、オキシトシンによってアルコールに対する欲求が抑えられ、総消費量の減少につながることが、ラットと人間の両方で判明している。そのため今回の研究が、アルコール依存症の新たな治療法開発の一助となることに研究チームは期待を寄せている。(c)AFP