【1月24日 AFP】建造から数十年が経過した古い貨物船が、闇市場で中古車のように容易に取引されている。年末から年始にかけ、数百人単位でイタリアへ密航させようとしていた貨物船が漂流しているのが相次いで見つかったが、こうした船も例外ではない。

 海運専門家によると、伊当局に発見された「エザディーン(Ezadeen)号」と「ブルースカイM(Blue Sky M)号」は、リサイクル用に解体したとしても、スクラップとしての価値はいずれも15万ドル(約1770万円)程度にしかならない。2隻は当局の力が及ばない闇市場で取引されてきた可能性があるという。

 48年前に建造された家畜運搬船のエザディーン号には祖国からの脱出を試みる移民が360人、建造後37年経った貨物船ブルースカイM号には768人が乗っていたが、どちらの船にも通常の商用船に求められる堪航能力に関する最新の証明書がなかった。

 ギリシァ・ピレウス(Piraeus)港の海運仲立業者(ブローカー)、ウルサ・シップブローカーズ(Ursa Shipbrokers)のサイモン・ワード(Simon Ward)氏はAFPの取材に対し、2隻の貨物船は「スクラップにする以外、何の価値もないもの」だが、トルコのスクラップ回収場では、どちらも25万ドル(約3000万円)にもならないと語った。そこまでの輸送費に最大10万ドル(約1200万円)ほどかかることを考えると、船主は現金を支払う相手に船を売った方がいいと判断するかもしれないという。

 匿名を条件に取材に応じた英ロンドンのブローカーは「誰かに安い金で船を操縦させて、そこに移民を乗せる。(船の調達は)中古車を買うのと同じくらい簡単なことだ」と話した。密航を請け負う潜在的な利益は非常に大きい。伊当局によると、エザディーン号に乗っていた密航者は、地中海を渡るために1人当たり4000~8000ドル(約47万~94万円)を支払っていた。業者の利益は144万~288万ドル(約1億7000万~3億4000万円)に上るという。

 英海運専門紙ロイズリスト(Lloyd's List)の編集者デービッド・オルセン(David Olsen)氏は「中古の船を売ること自体は世界中、どこであれ完全に合法だ。貨物船はeBayにも出品されているし、格安の船を紹介するウェブサイトもあるほどだ」と話した。

 多くの一流ブローカーが中古船の取引を行っているが、怪しい書類しか付いていないギシギシと音を立てるような船を買うのは、通常の取引とは全く異なる。前述のロンドンの海運ブローカーによると、トルコやシリア、レバノン、北アフリカといった東地中海一帯では、監視や規制を逃れた船の取引が多く行われているという。

 前述のピレウス港の海運ブローカー、ワード氏はエザディーン号について、スクラップ取引の一環として買い取られたか、船主が解体するつもりで売ったものの、途中で仲介した何者かが買い取ったのではないか、と考えている。(c)AFP/Alice RITCHIE