■大量絶滅の謎

 大量絶滅が正確にどのようにして発生したのかについては、これまでさまざまな推測がなされてきた。

 広く知られている説は、「核の冬」が起きたとするものだ。核の冬では、衝突によって舞い上がった塵(ちり)が空を覆い、太陽光が地表に届かなくなることが原因で植物が枯れ、同時にこれら植物に依存する生物種も死滅する。

 激しい議論が交わされている「酸性雨」説も推測されてきたものの1つだ。

 懐疑派は、酸性雨説で問題の原因とされている化学物質のSO3よりも二酸化硫黄(SO2)の方が隕石の衝突で放出された可能性が著しく高いと指摘しており、また、放出された物質が地表に落下するのではなくて、成層圏にとどまっていただろうとも主張している。

 この答えを研究しているPERCのチームは、運命の日に起きたことを小さなスケールで再現するための実験装置を開発した。

 研究チームは、レーザー光線で糸状のプラスチックを蒸発させ高速のプラズマ風をつくり出し、重金属タンタルの微小金属片を岩石サンプルに衝突させた。重金属の金属片は小惑星を、岩石サンプルは小惑星が衝突した地表面をそれぞれ微小スケールで再現したものだ。

 実験では秒速13~25キロ(時速4万7000~9万キロ)の速度で衝突を発生させ、放出されたガスを分析した。その結果、SO2よりもSO3の方が、分子の数が圧倒的に多いことが分かった。

 また研究チームは、衝突で放出されたと思われるケイ酸塩のより大きな粒子についてコンピューターシミュレーションを行い、それらもまた大量絶滅の一翼を担っていることを発見した。ケイ酸塩粒子は、硫黄の有毒蒸気と速やかに結合して硫酸性「エアロゾル」となり、地表に降り注いだ。

 当時起きたとされる、「有孔虫」と呼ばれる浅い海面に生息する種類のプランクトンの大量絶滅は、重度に酸性化した海水で説明できる。有孔虫は炭酸カルシウムの殻で守られた単細胞生物で、酸性化した海水中ではこの殻が溶解してしまう。

 この「酸性雨」説は、大量絶滅に関するその他の謎を説明する一助にもなる。論文によると、隕石衝突後にシダ植物の個体数が急増した理由は酸性の湿潤な環境をシダが好むからだという。(c)AFP/Richard INGHAM