【12月6日 AFP】失読症(ディスレクシア)患者の読字を困難にしている原因は脳内の障害にあるとする最新の研究論文が、5日の米科学誌サイエンス(Science)に掲載された。

 長年支持されている説に異を唱える今回の研究結果は、遺伝性神経疾患の失読症を引き起こす原因をめぐって続けられている議論──失読症の原因は脳神経経路の異常なのか、それとも言語を形成する音と記号の相互作用を脳が理解できないからなのか──をさらに加熱させるものとなった。

 学習障害(LD)の1つである失読症は、人口の約10%に影響を及ぼしており、経済的・民族的背景の違いにかかわらず、すべての人間で発症する可能性がある。

 今回の研究は、失読症患者23人と健常者22人の脳スキャン検査に基づくもので、その結果、失読症患者は音声単位を問題なく理解できるが、それを処理するための脳の結合が欠如していることが分かったという。

 ベルギー・ルーベン大学(University of Leuven)のバルト・ボーツ(Bart Boets)教授(精神医学)は「われわれ、そしておそらく失読症の分野に携わる広い範囲の人々にとってかなり驚くべきことなのだが、大人の失読症患者では、音声表象そのものが全く損なわれていないことが分かった」と話す。

 これまで圧倒的な支持を得ている、失読症患者は言語の音をはっきり区別・認識する能力が何らかの形で劣っているという説に対して、チームの研究は異を唱えるものだとボーツ教授は言う。

 チームは今回の研究を通じて、音声表象が処理される右脳と左脳の聴覚野と、高レベルの音韻処理を行うブローカ野との間の結合機能が損なわれていることを発見したという。

 ボーツ教授は「言語音声表象そのものが損なわれているのではなく、言語野における結合の機能不全により、言語音声表象への効率的なアクセスが阻害されていることをわれわれの研究結果は示している」と説明する。

 実験の被験者には、まず部分単語を4回繰り返して聞かせ(ba-ba-ba-ba)、次にもう一度、子音か母音を差し替えた部分単語を4回繰り返して(da-da-da-da)聞かせて、何が変わったかを指摘させた。

 研究チームは機能的磁気共鳴断層撮影法(fMRI)を使用して、それぞれの音に応じて脳に現れる固有の痕跡を測定した。その結果、痕跡が示す特性は健常者と失読症患者とで同一であることが明らかになった。

 つまり、失読症患者の脳も健常者と全く同様に、音とその変化を特定していることになる。だが論文によると、失読症患者が反応を示すのに要した時間は、健常者より1.5倍長かったという。

 ボーツ教授は今回の研究が、非侵襲(しんしゅう)的な脳刺激技術を用いて脳回路を回復させる優れた手法の開発につながることを期待していると述べた。

 だがカリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San FranciscoUCSF)の神経科学者、マイケル・マーゼニック(Michael Merzenich)氏は、今回の研究結果を疑問視している。

 同氏は、サイエンス誌に対して、失読症患者が音声表象を処理する忠実度は健常者に比べて低いことが、数十年にわたる「非常に広範で有力な」証拠によって示されているとし、「この文献を無視することはできない」と述べている。(c)AFP/Kerry Sheridan