【8月30日 AFP】貧困は人の知力を鈍らせ、IQ(知能指数)を13ポイント減少させる可能性がある――。貧困が脳に与える影響についての研究報告が29日、米科学誌サイエンス(Science)に掲載された。

 研究報告によると、貧困は人の心的資源を枯渇させ、問題の解決や衝動の抑制といったことに対する集中力を減少させる。貧困状態は、睡眠不足の時や知能が低い場合と同じ影響をもたらすという。

 論文の共著者、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学(University of British Columbia)のJiaying Zhao教授は、「貧困状態は人の認識機能に影響を与え、正しい判断を下す能力を妨げるばかりかさらなる貧困を招く可能性があると私たちは考えている」と述べた。

 研究チームは、米ニュージャージー州のショッピングモールとインドのサトウキビ農園で調査を行った。

 ショッピングモールでは、所得が2万ドル~7万ドルの約400人を対象にした。対象者には、もし車が故障して修理に一定の費用がかかるとしたらどうするかという質問をし、それぞれの家計の状態を思い起こさせた。そして、修理費用は対象者に応じて150ドル(約1万5000円)または1500ドル(約15万円)と伝えた。その後、形を順番通りに並べるなどの認識と衝動抑制に関する一連のテストを行ってもらった。

 その結果、最低の所得水準の対象者のうち、修理費用が1500ドルと伝えられた人たちのテスト結果は最も悪く、一方で修理費用が150ドルと伝えられた人たちのテスト結果は、所得がより高い人たちと同じだった。

 また、インドのサトウキビ農園では464人を対象に、年に1度の収穫期の前後で同様のテストを行った。その結果、手持ちの金が少なくなる収穫前よりも一定の収入を得た収穫後の方が、同じ対象者でも良いテスト結果を得たことがわかった。

 Zhao教授は、「プレッシャーによって心の中に大きな不安が生まれ、心的資源がいま直面する問題の方へ引き付けられる。つまり、日常生活で注意を必要とする他の物事に集中することができなくなることを示している」と語る。

 論文の共著者、ハーバード大学(Harvard University)経済学者のSendhil Mullainathan氏は、「知能指数が上がると、認知制御やエラー率が下がり、回答時間も短くなる」と話す。

 研究結果は、資金援助が貧困関連の問題に対するあまりに短絡的な回答であることを示しており、それよりもワーキングプアを消耗させる育児などの悩みに的を絞る方が、より効果的である可能性が高いと研究チームは指摘している。(c)AFP