【7月14日 AFP】まもなく第1子が誕生する英国のウィリアム王子(Prince William)と妻のキャサリン妃(Catherine, Duchess of Cambridge)は、英王室の新たな一員に名前を授ける際に、学業成績から職業選択、結婚相手から住む場所にまで名前が影響を及ぼすという数多くの証拠を気に留めたほうがいいだろう。

 研究によれば、「ラトリーナ」や「ブッチ」という名よりも「ジャクリーン」や「スティーブン」という名の方がより良い人生を過ごすという。また世界最速の男「ボルト」(=稲妻)や、英気象予報士のサラ・ブリザード(Sara Blizzard)さん(ブリザード=猛吹雪)と名前の関係、さらに近所の図書館員が「ストーリーさん」だったりする現象についても指摘している。

■名前につられて行動も変わる?

  「名前はその人物の性格や経歴について他人がどう思うかに影響し、それによって、人生で与えられるチャンスに影響し得る」というのは、英ハートフォードシャー大学(University of Hertfordshire)の心理学教授、リチャード・ワイズマン(Richard Wiseman)氏。教授自身の名前がその好例だ(ワイズマン=賢人)。「ある種、予言の自己成就(予言をしたことによって、それに沿う行動をとった結果、予言通りの事象が現実となること)ともいえる。知性や成功、魅力を感じさせる名前を持っていると、その通りに振る舞う傾向が強くなる」

 近年では、成功の予測因子として名前を研究する例が数多くある。そうした中で「イザベラ」や「ケイラ」といった「女性らしい」と認識されるような名前を持つ女子は、「テイラー」や「マディソン」といった名前を持つ人たちよりも、理数系のキャリアを追求することが少ないという。また出自は同じでも「ステータスの低さ」を連想させる名前を持つ生徒は、「高級」に響く名前を持つ生徒よりも成績が悪い傾向があるという。

■名前と職業選択

 名前と人生に関する論文を発表している米ノースウエスタン大学(Northwestern University)の研究者デービッド・フィリオ(David Figlio)氏もAFPの取材に対し「名前は子どもの人生にかなり影響する」と話す。

 研究では人々が明らかに、しかしおそらく無意識的に「自分自身に似たもの」を好む傾向が示されている。そうしたものの中に名前のつづりがあり、例えば「デニス」は皮膚科医よりも歯科医(デンティスト)になりやすく、「ローレンス」は「弁護士」(ロイヤー)に多く、「レイモンド」は放射線科医(レディオロジスト)に多いという。

 名前が性格や職業に大きく影響するとする「主格決定論」は、1994年に英科学誌「ニュー・サイエンティスト(New Scientist)」が生み出した言葉だが、そのとき引用された尿失禁に関する論文の著者の名前は「スプラット」と「ウィードン」だった(スプラッターは水などの跳ねを表し、ウィーは幼児語でおしっこ)。

 ラテン語にも「名は体を表す」と同じようなことわざがあるが、その例はあまたある。

・米自動車レーサーのスコット・スピード(Scott Speed
・英園芸家のボブ・フラワーデュー(Bob Flowerdew
・米歌手のビル・メドレー(Bill Medley
・米プロゴルファーのタイガー・ウッズ(Tiger Woods
・英ロマン派の詩人ウィリアム・ワーズワース(William Wordsworth
・元米大統領報道官ラリー・スピークス(Larry Speakes
・米弁護士スー・ユー(Sue Yoo

 皮肉な名前も多い。カトリック教会のフィリピン・マニラ(Manila)大司教だったハイメ・シン(Jaime Sin)(シン=罪)枢機卿や、鎮痛の専門家リチャード・ペイン(Richard Payne)(ペイン=痛み)博士、などだ。

■否定的な名前だと変わる周囲の期待感  失意をもたらす名前もありそうだ。

 心理学者のアーネスト・ラベル(Ernest L Abel)氏は、野球で三振を表す「K」で名前か苗字のつづりが始まる野球選手は、他の選手よりも三振しやすいと述べている。  また経営学修士号(MBA)を取ろうとする学生で、名前が「C」や「D」で始まる学生は、「A」や「B」で始まる学生よりも平均点が低い傾向があるという。名前のイニシャルが軽蔑語の「P.I.G.」のような否定的な言葉と同じになる人は、「V.I.P」のような肯定的な言葉と同じになる人よりも寿命が短いという研究さえある。

 米ミズーリ(Missouri)州セントルイス(St. Louis)には、「ルイス」という名前が極端に多く、人は名前が似ている同士で結婚する傾向が高いという統計まである。

 こうした証拠の多くは逸話的なもので、問題がありそうな名前でも成功している人物はいる。バラク・フセイン・オバマ(Barack Hussein Obama)氏は米大統領選挙に出馬した2008年、「私のミドルネームを付けた人物は、私が大統領に立候補するとは思いもよらなかったに違いない」と冗談を述べた。 「名前は印象を決める。自分の子どもにどのような服を着せ、どのような身なりにするかと同じだ」と主張するのは「Beneficial and Harmful Baby Names」(子どもにとって良い名前、悪い名前)の著者で、米カリフォルニア大学(University of California)の心理学名誉教授アルバート・メラビアン(Albert Mehrabian)氏だ。教授はまた、「望ましくない名前を持っていると、他人からの扱われ方が変わる」と述べ、同じ人物の写真でも添えられた名前によって魅力度に差がついたり、試験でまったく同じ回答をしても、名前によって点数が違ったりすることがあると指摘する。「名前によって、子どもに対する教師や社会の期待感が変わるからだろう」と同教授は述べている。

 これから親になる人たちに、メラビアン氏はこうアドバイスする。「名前の字に、奇をてらった字を使わないこと。好感度ががくっと落ちる。工夫しすぎたり、芸術的にすることはない。概して、変わった名前は避けたほうがいい」

(c)AFP/Mariette LE ROUX