【7月7日 AFP】インドネシア・スマトラ(Sumatra)島のリアウ(Riau)州に暮らすサパリナさん(36)がホウレンソウを植えに畑に出掛けたとき、まだ地面は熱く、辺りには煙がくすぶっていた。熱帯雨林だったその一帯に、今は焼け跡が広がっている──先月、この島で発生した大規模な山火事は、ここ数年の東南アジア地域で最悪の煙害をもたらした。

 同国で違法とされている焼き畑農法によって開墾された一画には、真っ黒に焦げた木の切り株の間に、燃えて黒くなった土が横たわる。およそ0.5ヘクタールの農地に苗を植えるサパリナさんは足首まで灰に埋まり、前に進むのも大変そうだ。それでも「神様に感謝しています。野菜もアブラヤシも、簡単に植えられるようになりました」という。

■「焼き畑は島に不可欠」

 先月、スマトラ島で発生した大きな山火事は、隣国シンガポールとマレーシアの空を有害な煙霧で覆い、環境保護団体から激しく糾弾された。しかしその一方で、この島では大農園(プランテーション)の労働者たちからサパリナさんのような村人たちまでが根強く、焼き畑農法を支持している。

 焼き畑は、最も安価で時間のかからない開墾方法だ。掘削機やブルドーザーを使うよりずっと安く済む。その上、燃えた後に残る灰は天然の肥料になる。

 また、スマトラ島の住民の多くにとって、焼き畑に代わる開墾方法はほとんどないのが現状だ。小規模なヤシ油農園を所有する男性は「立ち並ぶ巨木を手で切り倒したいという人が、どこにいるだろう?焼き畑は不可欠だ」と断言する。

■困難極める火災の原因究明

 山火事による煙霧が晴れるにつれ、当局は鎮火活動から発火の原因究明に重点を移している。火事を起こした「犯人」として多くの人が疑いの目を向けているのが、ヤシ油や紙・パルプを製造する大企業だ。

 ただし、小自作農の間で焼き畑が一般的に行われていることは、火災を起こした可能性がある人物が数え切れないほどいることを意味する。さらに環境保護団体によれば、大企業が所有するアブラヤシ農園で密かにマッチを擦ることで収入を得ている者がいる他、大企業自身も焼き畑を行っているという。

 火災を引き起こした可能性があるとして、警察はこれまでに24の小規模農家を特定した。当局はいずれも大規模な農園経営企業との関係について言及していないが、何らかのつながりがないか調査中だという。また政府関係者によると、大企業の所有地の中で発生した火災もあり、現在8社について捜査中だ。

 だが大企業の多くは「方針として焼き畑は一切、行わない」と明言しており、所有地で発生した火災は全て敷地外からの延焼によるものに違いないと主張している。

 火事を起こした者の特定は、警察にとって気の遠くなるような作業だ。広大なスマトラ島で働く農園の労働者や住民たちは、いつでも口にたばこをくわえている。土地のおよそ50%は泥炭地で一度、火の手が上がれば、炭素含有量が多く消火が非常に困難な地下深くの泥炭層まで焼き尽くす。一方で、焼き畑は住民たちの生活の一部だ。

■今後の対策は──

 焼き畑を禁止する法律はもはや非現実的であり、政府の管理下で焼き畑を行っていくべきだという声も出始めている。公共福祉調整省の副大臣も「法規制だけで効果が出るとは思わない。伝統を変えようとしたが、それは不可能なことだ」と述べている。

 国際環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)などは、焼き畑を禁止している現行法を政府がもっと効果的に執行すべきだと主張する。「焼き畑農法が続けられていることは、インドネシアの天然資源管理の不備を示す氷山の一角にすぎない」という。(c)AFP/Olivia Rondonuwu