【2月14日 AFP】買い物から帰宅したユッカ・ペルトネン(Jukka Peltonen)さん(51)は、せっかく買ってきたクレメンタイン(オレンジの一種)が、すっぱすぎて自分の口に合わないことにがっかりした。
 
 だが生ごみとして捨てるかわりに、ペルトネンさんは自分が住む共同住宅の地下室にある共同食料庫にこれを置き、他の入居者に食べてもらうことにした。
 
 廃棄食料の削減を目的としたこの先駆的プロジェクトは、200人が住むこのフィンランドの首都ヘルシンキ(Helsinki)郊外の共同住宅で、4か月前に始められた。世界各国で広がる、より環境に配慮した生活を求める消費トレンドの一例だ。

 住居ビル2棟の住民らが共有するこの食料庫には、賞味期限が迫ったヨーグルト、まだ包装されたままの肉の切り身、チーズ、パン、フルーツ、野菜、飲み物など、おいしそうな食材であふれている。食料庫がある地下室の室温は、通年6度に保たれている。

 利用者は入り口の扉近くにつるされている掲示板に利用記録を残すことになっている。「部屋番号と、持ち込んだもの、持ち出したものを書く。短いメモを残すこともできるよ」(ペルトネンさん)。交流サイトのフェイスブック(Facebook)には、最新の在庫状況を知らせるページも作られている。

■プロジェクトのカギは「住民間の信頼関係」

 このような形で食料を共有する行為に対する法的な規制はない。プロジェクトは住民の信頼関係に基づいている。

 ペルトネンさんは、「先週からは手作りの料理の残りも置けるようになった。その時は、材料を全て書いておかなければいけない。もし具合が悪くなったら、誰の責任かすぐにわかるからね」と語る。

 プロジェクトの発案者、ヘイキ・サボネン(Heikki Savonen)さん(44)は、2年前にこのアイデアを思いついた。「食料廃棄を減らすために、『食料のためのフェイスブック』を作ったらどうだろうと思ったんです。それも地域や都市レベルで」

 サボネンさんは、フィンランド農業食料研究所(MTT)に連絡を取り、インターネット上でプロジェクトを開始。最終的に、住民の数が最適で、多様な世帯が暮らすこの共同住宅の住民らと接触することになった。

 農業食料研究所はこのプロジェクトを「先進的」と称賛している。研究員の1人は「どのみち廃棄されてしまう食料を生産する行為は、環境にとって不要な負荷になっている」と語る。フィンランドでは年間13万トンの食料が家庭から廃棄されている。

■食料庫から生まれたコミュニティー

 この共同住宅で共有食料庫の掲示板に定期的に利用記録を残す住民は10人ほどと、まだ少ない。ペルトネンさんは「現実問題、絶対に利用しない人もいる」と語る。「だが、隠れた利用者もいる。そういう人は、掲示板に何も書かない。例えば、高齢の人は他人の食べ物をとっていくのを恥だと感じ、何も書かない」。さらに、「夏になれば、外出する機会が増えるので、利用者が増えるかもしれない」とも語った。

 プロジェクト開始から4か月が経ったが、これによって利用者の食費が浮いたかどうかは分からない。だがサボネンさんは、一番重要なのは食費ではないと言う。「このプロジェクトによって、コミュニティーの感覚が生まれた。通路ですれ違った時にはあいさつをして、『あなたが昨夜作ったパスタ、とてもおいしかったです』と言うようになった」

(c)AFP/Pauline Curtet