【12月26日 AFP】海水温上昇やシアン化物を使った漁法で破壊されたインドネシア・バリ(Bali)島周辺のサンゴが、ドイツ人科学者の開発した装置を活用したダイバーの取り組みで生き返り、そのプロジェクトが世界中に広がりつつある。

 ドイツ生まれのオーストラリア人女性ダイバー、ラニ・モロー・ウィックさん(60)がその美しいサンゴ礁にひかれ、初めてバリ島北部ペムテラン(Pemuteran)の海に潜ったのは1992年のこと。しかし、すでにシアン化物やダイナマイトを使った漁法でひどく傷ついていたサンゴ礁は、90年代終わりまでには海水温上昇で絶滅の危機にひんするようになった。

 そうしたとき、ラニさんはドイツの建築家で海洋学者のボルフ・ヒルベルツ(Wolf Hilbertz)氏が1970年代に開発した「バイオロック(Biorock)」と呼ばれる技術について知り、耳をそばだてた。

 外見から通称「カニ」と呼ばれるこの装置は、金属製の枠の装置を海に沈めて生物に害のない弱い電流を流し、枠を「成長」させるもの。ヒルベルツ氏が米ルイジアナ(Louisiana)州で装置をテストしたところ、電解反応で石灰岩が形成され、数か月でカキが装置を覆い、石灰岩にすみつくようになった。さらにテストを重ねた結果、サンゴでも同じ現象が確認された。

 ラニ氏はこの装置を見たとき、「自分の海」を救うアイデアを思いついた。そして2000年に私財を投じ、ペムテラン湾に面するリゾート地、タマンサリ(Taman Sari)の協力を得て、プロジェクトを開始。装置を22基設置することを決めた。

 今ではペムテラン湾の約2ヘクタールの範囲に約60の枠が設置されている。サンゴ礁は絶滅の危機から救われただけでなく、以前よりも豊かになっている。「バイオロック」によってサンゴを生き返っただけでなく、白化や地球温暖化にも強くなった。

 1980年代半ばからヒルベルツ氏とともに働き、4年前に同氏が亡くなった後も研究を続けているジャマイカの海洋生物学者で生物地球化学者のThomas J. Goreau氏はAFPの取材に、「サンゴは2~6倍のスピードで成長している。数年でサンゴ礁を回復できるだろう」と話している。

 サンゴの復活で、観光客も増えた。ラニ氏によると、2000年時点からダイビングショップの数は倍増したという。当初、プロジェクトが生活を脅かすのではないかと難色を示していた地元の漁業関係者らも、今ではプロジェクトの利点を認めているという。

「バイオロック」技術は現在、東南アジアの他、カリブ海、インド洋、太平洋地域などの20か国で採用されている。(c)AFP