【10月31日 AFP】車の往来で混雑する路上に、電光掲示板が設置されている。そこに表示されているのは温度、風の強さ――そして放射線レベルだ。

 ここはロシア北西部コラ半島(Kola Peninsula)。旧ソ連による「核投棄」という過去をいまも引きずっている地域だ。

 ソ連が崩壊したとき、ロシア北西部のこの半島には、老朽化した原子力潜水艦が取り残され、使用済み核燃料が投棄された。もっとも使用済み核燃料の容器は必ずしも密閉されているとは限らない。

 水産資源の豊富なバレンツ海(Barents Sea)は脅威にさらされ、さらに核物質を求める密輸業者が暗躍した。

 ソ連崩壊後の約20年間に投じられた、主に西側諸国からの数十億ドルの資金で、「投棄場」の荒廃は少しだけ和らいだようにみえる。

 放射性廃棄物の海への投棄は1980年代半ばまで行われたが、いまはようやく「過去のもの」となった。半島沿いに100隻はあったうち捨てられた潜水艦も、現在はその大半が処理された。

 灯台も、危険性が指摘されている放射性同位元素熱電発電機から太陽光発電に切り替えられた。

■まだ残る未処理の核廃棄物

「状況は良くなったけれど、まだ問題はある」と、元潜水艦将校のアレクサンドル・ニキーチン(Aleksander Nikitin)氏は語る。

 ニキーチン氏は1996年、ノルウェーの環境団体ベローナ(Bellona)を通じて潜水艦のもたらす環境危機を訴え、KGB(旧ソ連国家保安委員会)を後継したFSB(連邦保安庁)に拘束された。

 ニキーチン氏によると、現在の最も重大な問題は、ノルウェーの国境から40キロの距離にあるアンドリーバ湾(Andreeva Bay)に投棄された、30トンの原潜や原子力砕氷船から出た放射性廃棄物や使用済み核燃料だという。

■処理方法わからない廃棄物も

  一方、バルト海(Baltic Sea)のすぐそばにも、2万1000本の核燃料棒が貯蔵タンクや容器に詰められて置かれてある。総放射能量は85万テラベクレルで、これは1986 年のチェルノブイリ(Chernobyl)原発事故で放出された放射能の9倍にも上る。

「燃料棒の貯蔵タンクは1980年代と同じものだ。上に雨よけの屋根をかけて、周囲にフェンスをつけてあるだけだ」とベローナのある研究者は語る。

 コラ半島の核廃棄物の処理を行うロシア当局「SevRao」の責任者によると、この核燃料棒の入った容器の第1陣が、6月にウラル(Ural)地方のマヤク(Mayak)処理施設に輸送されたという。

 しかし、「(輸送は)簡単だが、タンクの中身をどうやって処理すればいいかまだわかっていない」とベローナの研究者は言う。

 ムルマンスク(Murmansk)にも、核燃料棒の撤去方法がわからないまま、複数の砕氷支援船が20年間も置き去りにされている。そのなかの1隻、1936年建造の「Lepse」には沈む恐れも出てきている。

 一帯の核問題についてロシア当局は透明性確保を約束している。しかし、外国人記者が立ち入りを許可されていない場所は多い。

 ムルマンスクではきょうも放射線レベルが上がったことをラジオが知らせ、ロシア・ノルウェー国境では船舶が核物質の密輸検査を受けている。(c)AFP/Pierre-Henry Deshayes