【6月2日 AFP】広範囲薬剤耐性(XDR)結核に感染した米弁護士が海外へ渡航した事件は、米国の疾病対策の欠陥を浮かび上がらせた。鳥インフルエンザの流行や生物兵器テロが頻発する現代、このような欠陥は破壊的な結果をもたらす可能性があり、変革が必要だ。ワシントンD.C.にあるジョージタウン大学(Georgetown University)のglobal health lawの専門家、Lawrence Gostin教授はそう主張する。

 同教授は、現在の隔離を定めた法律は1948年に導入されたもので憲法違反の可能性もあり、必要な法的拘束力が欠如していると旧態化を指摘する。

 最近の脅威が起こったのは5月12日、弁護士のアンドリュー・スピーカー(Andrew Speaker)氏が結核の診断を受けたわずか2日後に、結婚式と新婚旅行のためジョージア(Georgia)州アトランタ(Atlanta)から欧州に旅だったことだ。米政府の疾病対策センター(Centers for Disease ControlCDC)によるとスピーカー氏は渡航を禁じられたにもかかわらず計画を変更しなかったという。

 5月23日、同センターは新婚旅行でローマにいるスピーカー氏に連絡を取り、大半の抗菌剤が効かない菌に感染していることを告げ、イタリアの病院で診断を受け隔離病棟に入院するよう求めた。しかし彼はこれを無視し、プラハ(Prague)に立ち寄った後カナダのモントリオール(Montreal)に飛び、そこから陸路で米国に帰国した。スピーカー氏は現在コロラド(Colorad)州デンバー(Denver)で治療を受けている。

 さらなる法の欠陥が指摘されるのは、国境警備隊の担当者が、保健当局がスピーカー氏を探していることを知りながらスピーカー氏の入国を許可したと伝えられている点だ。

 CDCの国際渡航検疫部責任者Martin Cetron氏は、現行法では担当者はそれ以上のことはできなかったという。自己申告による法の順守に依拠した現在のやり方の欠陥が明らかになったと認めながらも、「われわれはさまざまな方策を駆使してできる限りのことをした」と言う。
「われわれは皆が正しい事をするということに信頼を置く必要がある。強制的隔離命令の行使には慎重を期しており性急な命令は避けている」

 スピーカー氏はその隔離命令下にあったというが、そのような隔離命令の合法性すら疑わしいという。Gostin教授によれば法廷審問を抜きにして誰かを強制的に隔離することは憲法違反の可能性が高いという。

 現在米国で強制隔離法が適応されているのは、スピーカー氏と、治療不能の結核に感染し、病院に適切な設備がないためアリゾナ(Arizona)の刑務所に隔離されているロシア系米国人の2人のみ。

 Gostin教授は、「理想的な法律は、公衆衛生当局者に隔離や患者の状態を強制的な診断などの広範囲の権限と、若干の司法上の監督権を与えるものだ」と言う。

 ミネソタ大学(University of Minnesota)の緊急準備の専門家、Michael Osterholm氏は、大規模な伝染病との関連から最近の事例は最も問題を含んでいるという。
「例えばこれが感染者が1人でなく数十人いる伝染病の初期だったとしたら、どんなことが起こるか? このシステムではすぐにパンクしてしまうだろう。それに対して何の対策もない」

 いずれにせよ、今年末に世界保健機関(World Health Organization, WHO)の新しい国際保健条例が実施されれば変更があるだろう。

 Gostin教授は、ほかの諸外国と同様、米国は新しい枠組みに調印したが新しい条例に適合するには法律を更新しなければならないという。(c)Jean-Louis Santini